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第6話
「そうだったんだ。俺が何かした訳じゃなかったのか」
「ええ。多分、お見苦しいものをお見せてしまって、こんな風に体を綺麗にして、服まで着せて……あ、きっと博士がベッドにも運んでくださったんですよね。本当にありがとうございました」
とりあえず、2人とも落ち着く必要があるとのことで、椅子にかけることにした。
真っ白な部屋の中の椅子はやはり真っ白で、蘭の椅子はいつもかけているだろう作りもしっかりした椅子だった。それに対して、一条がかけるのは明るいグレーの石を人や物を載せられるように打ち出したようなもので、椅子とは到底呼べるものではなかった。
「あ、実(みのる)が使っていた椅子がどっかにあるんだろうけど、分からなくて」
「実……さん?」
聞いた事のあるというか、見た事のある名前に、一条は思いを巡らす。珍しい名前ではないが、一条が身近で実という名前の人物は父方の祖父と行きの飛行機で出会った案内人の2人だけだった。
「芦田さんのこと、ですか?」
「うん、芦田 実。あいつは……元気そうだった?」
蘭によって呟かれた名前に。何故だか、一条は一瞬、ちくっと心臓を抉られたようになった。
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