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第8話
一条は今の今まで誰かと本格的につき合った事もなければ、誰かを本気で好きになった事もなかった。
特に、勉強一筋という訳でもなかったが、家があまり裕福でなかった事もあり、国立大学へ進む為に他の事をおいても勉強しなければならなかった。そして、その甲斐もあって、私大ではあったが、あの明慈大学へ返還義務のない奨学金を借りて、通う事ができた。
「なぁ、今夜、合コンやるんだけど、男が1人足りなくて。良かったら、来れない?」
めでたく大学へ入った後は頭も良く、顔も良く、おまけにトークも上手い芹澤の誘いもあり、一条は女の子の何人かと良い感じになる事もあった。
ただ、どうもしっくりこなくて、知り合い以上の関係にはならなかった。
「割といっちーって硬派なタイプなの? 葉月嬢と陽菜みんの2大勢力でもダメって。好きになるのは未来の奥さんただ1人!! みたいな?」
芹澤が茶化すと、その頃の一条は「2大勢力って何?」って返し、「そんなまさか」と思っていた。
人気の高い女子大に通う才色兼備・葉月、自身もモデル並みに容姿が整った美大生・陽菜。それ以外にもタイプも考え方も違う女性達。芹澤の見立てもあり、皆、それぞれ十分に魅力的な女性だったと思うが、蘭以上に惹かれる人間はいなかった。
だが……
「芦田 実。あいつは……元気そうだった?」
まるで遠くに行ってしまった恋人を案じているような、蘭の声色に一条は息が苦しくなる。
「あの人を、よろしくお願いいたします」
と口走った芦田の一言に一条はさらに息が苦しくなった。
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