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第2話

綾は額から流れる汗を手で拭うと、気を取り直してカメラバッグから愛機を取り出した。 ちょうどいいアングルを探しながら、背の高い向日葵の間の柔らかい土を踏み締めて歩く。 遠くから見ると、まるで金色の波のように重なって見えた花も、すぐ近くまで来ると意外とまばらだった。 綾はちょっとがっかりして、どこか撮影に最適な場所はないかと、辺りを見回した。 「お。あれだ」 咲き競う向日葵たちのちょうど真ん中に、鑑賞用にと設けられた小さな展望台がある。あそこなら山の斜面を背景に、波打つ花の群生を切り取ることが出来る。 近づいてみると、思った以上に理想的な展望台だった。 向日葵は時期や花の咲き方に恵まれず、今まで満足出来る絵は撮れていない。 綾はちょっとわくわくしながら、簡易展望台の階段をあがり始めた。 地面からもあもあとあがる湿度の高い熱気が、ステップを踏み上がる毎に、少しずつ和らいでいく。 あと数段でステップが終わる、という所で、不意に強い風が吹き付けてきた。 少し伸びすぎていた髪の毛が、風に煽られて視界を塞ぐ。 綾は、顔を顰めて顔にかかる髪の毛をかきあげ、残りのステップを上まで登った。 悪戯に吹いた風が、汗ばんだ身体に爽やかな涼をくれる。 一気に広がった視界が心地よかった。 綾は知らず詰めていた息を吐き出し、大きく深呼吸した。 方々に気を遣い、我慢することばかりの息苦しい毎日から、束の間解放されて、やっと普通に呼吸が出来た気がする。 気紛れに選んだこの休日の過ごし方は、どうやら間違ってはいなかったらしい。 綾は思わず頬をゆるめて、周りを見回した。 展望台の上はそれほど広くはなかったが、見渡す限りの向日葵の群れを、邪魔されずに一望出来るのは嬉しい。 少しはしゃいだ気分で、カメラバッグを床に下ろし、愛用のレンズを取り出した。

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