3 / 126
第3話
降り注ぐ陽光を身にまとい、時折吹く風に身を任せて、ゆらゆらとさざめく小さな太陽の申し子たち。
照りつける強すぎる陽射しは、花を撮るのにちょうどいいとは言えなかったが、綾は無心でシャッターをきっていた。
教科書通りの絵が撮りたいわけじゃない。2度とは会えないこの情景を、今しかない光と共に、1枚の絵に写し込んでいく。
そこには刹那的な喜びと切なさがある。偶然と必然が交錯するこの一瞬にこそ、自分だけのセンスと表現力が込められるのだ。
そこにこそ、自分が求めるカメラの醍醐味はある。
綾は、レンズを替え立ち位置を変えながら、時が経つのも忘れて、愛機と一体になっていた。
いったいどれぐらいの時間、夢中になっていたのだろう。
不意に、足の下から声が響いた。
「おいこら、待てって。転ぶぞっ」
あまりにも唐突に静寂が破られて、綾は咄嗟に現実の世界に戻れずにいた。
急に喉の渇きを覚え、キョロキョロと自分のバッグを探す。展望台の隅にぽつんと置いてあるそれを、取りに行こうとして、はたっと我に返った。
……今の声、いったい何処から?
っていうか、あの声……。
小さな子どもの楽しげな笑い声が響く。声がするのは、この展望台の真下だ。
「こら~、勝手に走っていくなよ」
「蒼くん、ここ、登るー」
「お、いいなぁ、展望台か。あ、足元、気をつけろよ。1人で上がれるか?」
「んー。だいじょーぶー」
賑やかなやり取りの後、子どもが階段を上がり始めたのだろう。カンカンと乾いた金属音が響き始めた。
綾はドキドキしていた。
大人の方のあの声には、聞き覚えがある。
それに、子どもが呼んだあの名前。
でもまさか、そんな……。
ともだちにシェアしよう!