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第3話

降り注ぐ陽光を身にまとい、時折吹く風に身を任せて、ゆらゆらとさざめく小さな太陽の申し子たち。 照りつける強すぎる陽射しは、花を撮るのにちょうどいいとは言えなかったが、綾は無心でシャッターをきっていた。 教科書通りの絵が撮りたいわけじゃない。2度とは会えないこの情景を、今しかない光と共に、1枚の絵に写し込んでいく。 そこには刹那的な喜びと切なさがある。偶然と必然が交錯するこの一瞬にこそ、自分だけのセンスと表現力が込められるのだ。 そこにこそ、自分が求めるカメラの醍醐味はある。 綾は、レンズを替え立ち位置を変えながら、時が経つのも忘れて、愛機と一体になっていた。 いったいどれぐらいの時間、夢中になっていたのだろう。 不意に、足の下から声が響いた。 「おいこら、待てって。転ぶぞっ」 あまりにも唐突に静寂が破られて、綾は咄嗟に現実の世界に戻れずにいた。 急に喉の渇きを覚え、キョロキョロと自分のバッグを探す。展望台の隅にぽつんと置いてあるそれを、取りに行こうとして、はたっと我に返った。 ……今の声、いったい何処から? っていうか、あの声……。 小さな子どもの楽しげな笑い声が響く。声がするのは、この展望台の真下だ。 「こら~、勝手に走っていくなよ」 「蒼くん、ここ、登るー」 「お、いいなぁ、展望台か。あ、足元、気をつけろよ。1人で上がれるか?」 「んー。だいじょーぶー」 賑やかなやり取りの後、子どもが階段を上がり始めたのだろう。カンカンと乾いた金属音が響き始めた。 綾はドキドキしていた。 大人の方のあの声には、聞き覚えがある。 それに、子どもが呼んだあの名前。 でもまさか、そんな……。

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