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第4話
綾は、カメラを握り締めたまま、意味もなく辺りを見回した。
この展望台に階段は1箇所しかない。
逃げようがない。
まごまごしているうちに、軽い足音はすぐ足元まで近づいてきた。
やがて、階段を上がり終えた子どもが、ひょっこりと顔を覗かせる。
まだ幼稚園ぐらいの小さな子だ。
きょろきょろと珍しそうに辺りを見回したその子と、ばっちり目が合ってしまった。
「おい、どーした?そんなとこで止まったら、詰まっちまうだろうが」
後を追って上がってきた男の声が響く。
俺は子どもから目を逸らし、少し屈んでカメラバッグに手を伸ばした。
……どうしよう。
じりっじりと、階段の方に背を向ける。このまま、彼と顔を合わせずに階段を降りる方法を、必死に考えていた。
まさかそんな偶然はありえないと思う。
でも、もし彼ならば、自分はいったいどんな顔をしたらいいのだろう。
「おお~。見晴らしいいじゃん!」
「蒼くんっ、見て~。お山、見える~」
「あっ、待て待て! 柵に近づくなって」
はしゃいで走り出す子どもを、男は慌てて追い掛ける。
目の端にちらっと映ったその姿に、綾の心臓はまたドキリと跳ねる。
……やっぱり……似ている……いや。
多分、間違いなく彼だった。
綾の脳裏に、さっき一瞬浮かんだ幻想のような遠い記憶の欠片が鮮やかによみがえった。
……ダメだ。顔、合わせたくない。いや、合わせられない。
懐かしい声。そして目の端にちらっと映った、記憶の中よりも背が伸びて逞しくなった姿。
当たり前だ。あれから月日は流れたのだから。
もう彼は、あの頃の彼じゃない。
そして自分も……。
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