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第8話
綾はぎゅっと目を瞑り、咄嗟に両手を前に差し出す。ガっと腕に衝撃を感じた。仰け反り倒れかけていた身体が、すごい力で引き戻される。
「ばっか!何やってんだよ!」
耳元で怒鳴られて、綾は驚いて目を見開いた。
自分を見つめる蒼の瞳で、視界がいっぱいになる。
「……っ」
「危なかった~。もう!驚かすなって! 心臓止まるかと思ったぜ。この、バカ!」
逞しい腕にぎゅうっと抱き締められて、綾はひゅっと息をのんだ。
心臓が止まりそうなのは、こちらの方だ。
頭の中が真っ白で、何も考えられない。
……なんだろう。心臓が苦しい。頭がズキズキする。くらくらして気持ち……悪い……。吐きそう……。
「おい、あや? おいっ」
焦ったような蒼の呼びかけに「何でもない、大丈夫だ」そう答えたつもりが、自分の口から出てきたのは声にならない吐息だけだった。
そのまま視界がぐるっと回って、綾の意識は唐突にぷつっと途絶えた。
「そうくん、だいじょうぶ?」
「うーん。目覚まさねえな。とりあえずおまえ車に乗れ、病院に連れて行くから」
もやもやと遠くの方から響くようだった音が、少しずつ意味のある言葉になっていく。
綾は顔をしかめながら、いやいや目を開けた。身体が重怠くて、本当はどこも動かしたくない。
「あ。目、あいたっ」
やけに鮮明に、何故だか聴き覚えのある甲高い声が耳元で響く。
「お。目ぇ覚ましたか!」
懐かしい蒼の声が聴こえて、ああそうか、これは夢なんだな……と、綾はぼんやり考えていた。
ちょっとほっとして、また目を閉じようとすると、両腕をガシッと掴まれた。
「おいっあや! こらっ目、閉じんなって」
「……っ」
びっくりして、ぱちっと目を見開いた。
目の前に懐かしい……いや、あの頃より大人になった蒼の顔がある。
「……あ」
「大丈夫か? 水、飲むか?」
……えっと……。どうして……俺。……あれ?
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