13 / 126

第13話

「ズルい。ぼくも、あやくんってよぶ」 周は口を尖らせた。蒼史朗は楽しそうに笑うと、こちらの顔を覗き込んできた。 「だってさ。どうする?あや」 そんなことを急にこちらに振られても困る。小さな子どもとは普段まったく接点がないから、どう相手していいのか分からないのに。 「あやくん、て、よんでもいい?」 2人揃って顔を覗き込まれて、綾は微妙に目を逸らした。 「俺は、別に構わないけど。えっと、」 周はキョトンとした顔で蒼史朗を見上げた。 「いいよ、って言ってるんだ。呼んでもいいってな」 その答えに周は瞳をキラキラさせて 「わ。じゃあ、あやくんね。僕はしゅうくん」 綾は驚いて、周の顔を見た。 さっきは、あまねと言っていたのに。 見守る蒼史朗がぷっと吹き出した。 「こいつの名前、円周率の周って書いてあまねって読むんだ。揶揄われるんだとさ。園の友だちに。女の子みたいな名前だって」 蒼史朗の目が悪戯っぽく煌めく。 昔のおまえみたいだな、とその目が言っているのだ。 綾はぷいっと蒼史朗から目を背け、言われるより先に自分で切り出した。 「そうか。じゃあ、俺と一緒だな、君も。お兄ちゃんも、昔よく揶揄われたんだ。名前。綾っていう字が女の子みたいだって」 「え。あやくんも?」 「そう。そこの君の……パパ?にも、昔よく揶揄われたよ」 そう言って蒼史朗を指差すと、周は蒼史朗を睨みつけ 「そうくん、からかっちゃ、だめなんだよ」 無邪気に味方してくれる。 思い切って、パパかとさり気なく聞いたつもりだったが、2人とも否定しない。 もしかしたら……とは思っていたが、内心かなりショックだった。 「じゃあ、あやくんじゃなくて、りょうくんってよんだほうがいい?」 周が気を遣ってくれる。5歳だと言っていたが、頭のいい優しい子だ。

ともだちにシェアしよう!