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第13話
「ズルい。ぼくも、あやくんってよぶ」
周は口を尖らせた。蒼史朗は楽しそうに笑うと、こちらの顔を覗き込んできた。
「だってさ。どうする?あや」
そんなことを急にこちらに振られても困る。小さな子どもとは普段まったく接点がないから、どう相手していいのか分からないのに。
「あやくん、て、よんでもいい?」
2人揃って顔を覗き込まれて、綾は微妙に目を逸らした。
「俺は、別に構わないけど。えっと、」
周はキョトンとした顔で蒼史朗を見上げた。
「いいよ、って言ってるんだ。呼んでもいいってな」
その答えに周は瞳をキラキラさせて
「わ。じゃあ、あやくんね。僕はしゅうくん」
綾は驚いて、周の顔を見た。
さっきは、あまねと言っていたのに。
見守る蒼史朗がぷっと吹き出した。
「こいつの名前、円周率の周って書いてあまねって読むんだ。揶揄われるんだとさ。園の友だちに。女の子みたいな名前だって」
蒼史朗の目が悪戯っぽく煌めく。
昔のおまえみたいだな、とその目が言っているのだ。
綾はぷいっと蒼史朗から目を背け、言われるより先に自分で切り出した。
「そうか。じゃあ、俺と一緒だな、君も。お兄ちゃんも、昔よく揶揄われたんだ。名前。綾っていう字が女の子みたいだって」
「え。あやくんも?」
「そう。そこの君の……パパ?にも、昔よく揶揄われたよ」
そう言って蒼史朗を指差すと、周は蒼史朗を睨みつけ
「そうくん、からかっちゃ、だめなんだよ」
無邪気に味方してくれる。
思い切って、パパかとさり気なく聞いたつもりだったが、2人とも否定しない。
もしかしたら……とは思っていたが、内心かなりショックだった。
「じゃあ、あやくんじゃなくて、りょうくんってよんだほうがいい?」
周が気を遣ってくれる。5歳だと言っていたが、頭のいい優しい子だ。
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