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第15話
……抱っこだなんて、冗談じゃない。
さっきは介抱の為とはいえ、キスされてしまった。気を失っている間に、ここまで運んでくれたのは蒼史朗だろう。
熱中症でぼーっとしていた間ならまだしも、今、抱っこなんかされたら恥ずかしくて消えてしまいそうになる。
「いい。大丈夫だよ、自分で立てるから」
綾は蒼史朗の手を押し戻すと、手を突っ張らせて立ち上がった。少し、よろける。でもどうにか大丈夫そうだ。
両足で地面の感触を確かめていると、視線を感じた。蒼史朗は何だか笑いを噛み殺すような顔をして見ている。
「……なに?」
「や。何でもねーよ。おまえ、やっぱり変わってねえな。そういう意地っ張りなとこ」
綾はぷいっとそっぽを向き
「車って、あれ?」
向日葵畑沿いの街道に、ちょっと変わったデザインの車が1台ぽつんと停めてある。
「ああ。俺の愛車。ポンコツだけどな」
周は先に車の側まで行って、こちらに手を振っている。
「歩けるか?」
「大丈夫」
綾は慎重に足を踏みしめながら歩き出したが、柔らかい畑の土に足を取られてよろける。
「ほら、危ないって」
蒼史朗は苦笑しながら、グイッと腰に手を回してきて
「意地張るなって。手を貸すぐらい何でもねーよ」
言いながら、一緒に歩き出す。
近すぎる距離が、触れた身体から伝わる蒼史朗の体温が、嬉しいのに恥ずかしくてドキドキする。こんな風に気にしているのは自分だけなのだ。蒼史朗は何も感じてない。当たり前だけど、せつなくなる。
車に辿り着くと、蒼史朗は助手席のシートを倒して
「とりあえず乗れよ。あまね、おまえは後ろな。シートベルト、自分で締めれるか?」
「うん。だいじょーぶー」
周は慣れた様子で後部座席に乗り込んだ。
「ごめんね、あまねくん。君の場所取っちゃって」
シートに座ってベルトを締め、後ろを見ると周はにこにこ笑って
「だいじょぶ。あやくん、のみもの、なにがいーい?むぎちゃと、こーひーつめたいの、あるよ」
後部座席に乗せたクーラーボックスを開けて、首を傾げる。
「あまね、あやにはむぎ茶だ。おまえも飲んどけ。だいぶ汗かいただろ?」
「うん」
周は小さな両手でペットボトルを取り出して綾と蒼史朗に渡すと、自分も一本出してキャップを開け、飲み始めた。
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