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第16話
「蒼くん。もしかして俺のために、車ここに停めてくれてる?」
水分補給の後、クーラーの涼しさが気持ちよくて、うとうとしていたらしい。
綾はハッと目を覚ますと、運転席の蒼史朗に恐る恐る尋ねた。
身体には、ブランケットが掛けてある。冷え過ぎないように、気を遣ってくれたのだろう。
蒼史朗はすぐには答えずに、なんだか変な顔をして自分を見つめている。
「……なに?」
「や。おまえに蒼くんって呼ばれるの、なんか久しぶり過ぎて変な気分だよな」
「じゃ、じゃあ、何で呼べばいいんだよ。蒼史朗…さん?」
ついムキになると、蒼史朗は苦笑して
「いや、ダメだそれ。背中がムズムズする。蒼史朗って呼び捨てでいいぜ」
綾は心の中で「蒼史朗」と呟いてみた。
なんだか妙に照れくさい。
呼べるだろうか、口に出して。
「随分、元気になったな。そろそろ車出すぞ?」
「あ……うん」
蒼史朗は車を発進させて
「で。何処に住んでるんだ?おまえ。この近く…ってわけじゃないんだろ?」
綾は目を逸らし、フロントガラスの先をじっと見つめた。
「うん。ここへは、電車で来たんだ。連休もらって、ちょっとあちこち写真撮って歩きたくなって」
「まだ続けてたんだなぁ、カメラ。あ、そうだ。おまえのカメラとバッグな、後ろに全部積んであるよ」
言われて思い出した。綾は慌てて後部座席を振り返って見る。
周がシートベルトにもたれ掛かるようにして、すよすよと気持ちよさそうに寝ていた。ふっくらした頬っぺが薄っすらピンク色に染まって、まるで天使みたいなあどけない寝顔だ。
「可愛い……。頬っぺがマシュマロみたいだ」
「あー。あまね、か。ほんとにな。肌なんかツルツルのつやつやだぜ?食べたくなっちまうくらいにな」
綾はそっと、運転している蒼史朗の横顔を盗み見た。
聞いてみても、いいだろうか。
この子が……蒼史朗と、どういう関係なのか。
「ね、蒼史朗…」
「で?お前ん家、何処だ?まだ電車に乗らせるのは不安だからな。家まで送ってくよ」
「あ…。うん……」
ダメだ。出来れば自分のマンションには連れて行きたくない。
「蒼史朗は。……えっと、何処に住んでるの?この近く?」
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