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第18話
車を降りて、ぼんやりと庭を眺めていると、後部座席から眠そうに目を擦りながら、周が降りてきた。
「あ。あやくん、いたー」
「おはよう。よく寝てたね」
周は欠伸を噛み殺しながら、にこっと笑って
「よかったぁ。ぼくねてたから、おきたらあやくん、もういないとおもったの」
綾は周の頭をそっと撫でて
「勝手にいなくなったり、しないよ。君は俺の、命の恩人だからね」
「いのちの、おんじん…?」
周はきょとんと首を傾げる。
そうか、今のはこの子にはまだ難しい言葉だったか。
小さい子と話をするのは結構大変だ。
どう説明すればいいだろう。
考えていると、蒼史朗の声がした。
「おい。2人ともいつまでそこに突っ立ってるんだ~?早く来いよ」
玄関のドアを開けて、こちらに向かって叫ぶ蒼史朗に、綾は周と顔を見合わせて微笑むと
「行こう。あまねくん」
「うんっ」
遠慮がちに差し出した手を、周がすかさずきゅっと握ってきた。その素直で温かい手の温もりが、なんだかすごく嬉しかった。
「言っただろ?オンボロだって」
「聞いてたけど……ほんとすごいな」
外観の印象を裏切らず、家の中もすごい有り様だ。物はそんなに多くはないが、久しぶりに来た家に、とりあえず生活に最低限必要な物だけ急いで並べたような、妙にちぐはぐな印象だった。
「ね、ここって、空き家だった?最近住み始めたのか?」
綾があちこち見て回りながらそう言うと、蒼史朗は意外そうに鼻を鳴らして
「へえ……分かるのか?住んで3ヵ月ぐらいだぜ。俺が住む前は何年も空き家になってたんだ」
「うん。俺、一応そっち系の仕事してるからね。何となく、分かる」
「ふーん」
蒼史朗は何故だか値踏みするような目をしてじろじろ眺めてきて
「おまえもしっかり社会人やってんのな、あや。昔のおまえからは全然、想像つかないぜ」
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