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第19話

蒼史朗の揶揄うような声音と表情に、綾はムッとなった。 「蒼くんと最後に会ったのは高校卒業の時だろ。あの時とは違う。いったい何年経ったと思って…」 「くくく。でもそうやって真っ赤になってムキになるとこは、やっぱ昔のまんまのあやだ。さーて、何か飲みもん出すから、周と一緒に向こうで座っててくれよな」 軽くいなされて、綾はぷいっとそっぽを向いた。 「飲み物ならむぎ茶がまだあるから、どうぞお構いなく」 くるりと背を向け、周のいる方にスタスタ歩いて行こうとすると 「なあ、あや。おまえ、昼飯って食ったのか?」 綾は足を止めて振り返った。 「……朝昼兼用でハンバーガーのセット食べたから」 微妙に目を逸らしながら答えると、蒼史朗はハぁ…っと大袈裟なため息をついて 「そういう不摂生してるから体調崩すんだぞ。おまえ、食い物に無頓着なのも変わらねえよな」 「っ、余計な、お世話だから、あれは熱中症で別に俺は、」 自分でも、食事には無頓着でジャンクなものばかり適当に食べている自覚はあるから、図星をさされてついムキになってしまう。 「いい。わかった。俺が栄養ある旨いもの食わせてやる。あや、悪いけど、周に絵本読んでやってくれ」 「……え……絵本……?」 ついついっとジーンズの脇を引っ張られた。綾が見下ろすと、周が大きな本を片手にこちらを見上げていた。 「あやくん。これ、読んで?」 にこにこしながら期待いっぱいに目を輝かせておねだりしてくる周に、そんなの無理だ、とは言えない。読み聞かせなんて、やったことないのに。 綾は楽しそうにこちらを見ている蒼史朗をキッと睨みつけてから、周に手を引かれて部屋の奥のソファーに向かった。 「……うちのむすめは せかいいちのむすめだから、せかいいちのおむこさんを、みつけてやらないとな。ところで、せかいいちつよいのは、やっぱりおひさまだろうな。とうさんネズミとかあさんネズミは、おひさまのところへいってみました……」 「ねーねー、あやくん。おむこさんって、なあに?」 周が絵本を覗き込みながらまた質問してくる。その表情は真剣そのものだ。

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