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第22話

周には蒼史朗の面影があるが、顔の造り自体はきっと母親譲りだ。目鼻立ちのくっきりした美人だったのだと想像出来る。 もし蒼史朗の奥さんに会ったら、自分はどんな顔をすればいいのかと、ここに来るまで不安だった。 だが、奥さんはもういないのだ。 3年も前に他界していた。 蒼史朗は、今、独り身なのだ。 なんだか複雑な心境だった。 手放しで嬉しいとは、とても思えない。 蒼史朗には幸せになって欲しかったから。 でも、自分の中のもう1人の自分が、彼が独り身だということに安堵している。蒼史朗が自分以外の誰かと幸せそうにしている姿を、見なくて済んだから。 「もうすぐこっち出来上がるから、周、呼んできてくれるか?」 「あ、うん……」 綾は聞きそびれた言葉を飲み込むと、周のところに戻った。 「あまねくん。蒼史朗が呼んでるよ。もうすぐ出来るって」 「はいっ」 周は絵本を閉じてテーブルに置き、ぴょこんっと立ち上がり、キッチンの方へ走って行く。 綾はそっとため息をついて、絵本の表紙をじっと見つめた。 「うわ……すごい。これ全部、蒼史朗が作ったのか……」 周と2人で蒼史朗が皿に盛った料理を運んでテーブルに並べていった。 「そうくんは、おりょうりのてんさいなの」 周が得意げに鼻をひくひくさせる。 「ばーか。天才は言い過ぎだ」 どの料理も、あの短時間で作ったとは思えない手の込んだ物に見える。 綾はちょっと呆気にとられて、テーブルと蒼史朗の顔を見比べた。 家がすぐ隣で家族ぐるみの付き合いだったから、蒼史朗の家にもよく遊びに行った。でも蒼史朗が料理をしている所なんて、1度も見たことはない。 「蒼史朗。料理なんて出来たんだ……」 「まあな。修行の成果ってやつだ」 「修行?」 「高校卒業後、アメリカに留学してた。帰国して料理学校に行ったんだ。よし、周、もういいぞ。後はやるから先に座ってろ」 「うんっ」 蒼史朗は周の頭を撫でると 「あや。これちょっと持ってってくれ」 綾は頷いて蒼史朗の後を追った。 「蒼史朗が料理学校なんて、意外だな」 「あの頃の友人には同じこと言われるよ。おまえが料理してるとこなんか想像つかないってな」

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