23 / 126
第23話
受け取った大きな深皿を、慎重にテーブルまで運ぶ。蒼史朗はサラダボウルとカトラリーをテーブルに置いて
「よし。これで全部だ。食うぞ」
綾は周の向かい側に腰をおろした。蒼史朗は2人の間の席に座ると、まずは取り皿に周の分の料理を取り分けて
「あまね。スープはまだ熱いからふーふーしてから食えよ。火傷すんなよ」
「うん。わかったー。いただきますっ」
周は元気一杯に返事をして、両手を合わせてからスプーンを握った。
「あや、そっちの皿寄越せ」
「あ、うん、ありがとう」
慣れた手つきでサーバースプーンを使う蒼史朗の大きな手を、綾はじっと見つめた。
「アメリカには何年いたの?」
「4年。帰国していったん外資系の会社に勤めた。でもどうにも合わなくてな。1年経たずに辞めて、バイトしながら料理学校に通ったんだ」
「ふーん。でもどうして……料理を?」
「アメリカでさ、和食の良さに目覚めたんだよ。あっちの日本食は高くて不味い。留学中は美味い和食にずっと飢えてた」
4年もアメリカにいたのなら、きっと英語はそれなりに喋れるはずだ。語学力を活かしてせっかく外資系の会社に勤めたのに、それを惜しげもなく手放して、いちから料理を覚えたのか。
料理と蒼史朗のイメージはなかなか重ならないが、いかにも彼らしいと思った。やってみたいことはあっても、現状手にしているものにしがみついている自分には、到底真似出来ない芸当だ。
「いただきます」
綾は手を合わせてからスプーンを手に取った。野菜がごろごろ入っているスープを掬ってひと口飲んでみる。
「……美味しい」
びっくりした。見た目は澄んだスープだが、味に深みとコクがある。思っていた以上に本格的だ。
「口に合うか?」
「うん。これ、すごく美味しい。なんだろう。優しくて懐かしい感じがする」
「そっか。懐かしい…か」
綾は取り皿に盛られた肉料理も、箸で摘んで齧ってみた。
これは蓮根で鶏のつくねを挟んである。蓮根の歯応えがちょうど良くて、中のつくねも生姜をきかせた味付けが絶妙だった。居酒屋で食べたことがあるが、あれとは全くの別物だ。
ともだちにシェアしよう!