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第23話

受け取った大きな深皿を、慎重にテーブルまで運ぶ。蒼史朗はサラダボウルとカトラリーをテーブルに置いて 「よし。これで全部だ。食うぞ」 綾は周の向かい側に腰をおろした。蒼史朗は2人の間の席に座ると、まずは取り皿に周の分の料理を取り分けて 「あまね。スープはまだ熱いからふーふーしてから食えよ。火傷すんなよ」 「うん。わかったー。いただきますっ」 周は元気一杯に返事をして、両手を合わせてからスプーンを握った。 「あや、そっちの皿寄越せ」 「あ、うん、ありがとう」 慣れた手つきでサーバースプーンを使う蒼史朗の大きな手を、綾はじっと見つめた。 「アメリカには何年いたの?」 「4年。帰国していったん外資系の会社に勤めた。でもどうにも合わなくてな。1年経たずに辞めて、バイトしながら料理学校に通ったんだ」 「ふーん。でもどうして……料理を?」 「アメリカでさ、和食の良さに目覚めたんだよ。あっちの日本食は高くて不味い。留学中は美味い和食にずっと飢えてた」 4年もアメリカにいたのなら、きっと英語はそれなりに喋れるはずだ。語学力を活かしてせっかく外資系の会社に勤めたのに、それを惜しげもなく手放して、いちから料理を覚えたのか。 料理と蒼史朗のイメージはなかなか重ならないが、いかにも彼らしいと思った。やってみたいことはあっても、現状手にしているものにしがみついている自分には、到底真似出来ない芸当だ。 「いただきます」 綾は手を合わせてからスプーンを手に取った。野菜がごろごろ入っているスープを掬ってひと口飲んでみる。 「……美味しい」 びっくりした。見た目は澄んだスープだが、味に深みとコクがある。思っていた以上に本格的だ。 「口に合うか?」 「うん。これ、すごく美味しい。なんだろう。優しくて懐かしい感じがする」 「そっか。懐かしい…か」 綾は取り皿に盛られた肉料理も、箸で摘んで齧ってみた。 これは蓮根で鶏のつくねを挟んである。蓮根の歯応えがちょうど良くて、中のつくねも生姜をきかせた味付けが絶妙だった。居酒屋で食べたことがあるが、あれとは全くの別物だ。

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