24 / 126
第24話
「これも美味しいよ、ほんとすごいな。プロっぽい」
綾が思わず呟くと、同じものにかぶりついていた蒼史朗が軽く吹き出した。
「え。どうして笑うんだよ」
「いや、だっておまえ、プロっぽいって。俺な、これでも一応、プロだぞ?今、和食の専門店で料理長やってる」
綾は食べかけの箸を口元まで持ってきたまま、ぽかんっと口を開けて蒼史朗を見た。
蒼史朗は横目でこちらを見て苦笑している。
「え……。えっ、料理長っ?」
「今の店は3年目だけどな。その前は老舗の天ぷら屋で揚げ方の板長だった」
綾は口の中の物をゴクリと飲み込んだ。
調理学校に通ってたと聞いたばかりだが、まさか本物の料理人、しかも料理長なんかやっているとは思わなかったのだ。
「すごい……。蒼くんが、料理長…」
「おまえな~、それ、驚きすぎだ。最後に会ったのは高校卒業の時だぜ。あれから何年経ったと思ってるんだ?」
さっき自分が言ったセリフをそっくりそのまま返されて、綾はぷっと頬をふくらませた。
「それさっき、俺が言った」
「ん?そうだったか?」
蒼史朗はすっとぼけて目を逸らし、また豪快に食べ始めた。
視線を感じて周の方を見ると、不思議そうな顔をして、自分と蒼史朗を見比べている。
「あまねくん。スープ、熱くない?」
綾が話しかけると、周はハッとした顔をしてからにこっと笑顔になり
「ううん。だいじょーぶー。ぼく、ふーふーとくいなの」
周は野菜たっぷりのスープをスプーンで上手に掬うと、ふー…ふー…っと何度も息を吹きかけてから、ぱくんっとスプーンを口に入れた。
……仕事中、周くんは保育所とかに預けてるのかな。男手ひとりでこんな小さな子を育てるって……大変だよな……。
普段、食べるものには無頓着で、いや、そもそも食べること自体を忘れがちで、食が細い自分にしたら、久しぶりにまともにとった食事だった。美味しかったのももちろんだが、蒼史朗がプロの腕前で作ってくれた…というのが新鮮で、箸が止まらなかったのだ。
ともだちにシェアしよう!