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第26話

「あまね。ココア出来たぞ」 周はリビングのフロアマットにちょこんと座って、ローテーブルでお絵描きをしていた。さっきの絵本の表紙を見ながら、スケッチブックに色鉛筆で何やら熱心に描きこんでいる。 蒼史朗が声をかけると、顔をあげてにこっと笑い 「はーい」 色鉛筆をテーブルに放り出して、こちらのテーブルにとことこ駆け寄ってくる。 「熱いぞ。また、ふーふーな」 「うん」 さっきの椅子に腰をおろして、綾もココアを冷ましながら啜った。 少量の牛乳で練った後で牛乳を分量分足し、最後に砂糖を入れたココアは、手間を掛けただけあって、カカオの香りと味が濃厚で美味しい。 「どうだ?甘すぎないか?」 「美味しい。甘さもちょうどいい」 「そっか」 蒼史朗は満足そうに頷いて 「ちょっと電話掛けてくる。あまねのこと、見ててくれるか?」 「あ。わかった」 蒼史朗はスマホを手にリビングを出て行った。 綾がまたココアをひと口啜ると、じーっとこちらの顔を見つめている周の視線に気づいた。 「ん?どうしたの、あまねくん。ココア、熱かった?」 周はぷるぷると首を横に振ると 「あのね、そうくんね、いつもとちがう」 「え?」 「いつもはあんなに、おしゃべりしないの。あんまり、にこにこしないし。きょうは、あやくんがいるからだね」 綾は目を見開いた。 周はすごく嬉しそうに頬をゆるめて笑うと 「ぼくね。そうくんのにこにこしたかお、すき」 「……蒼史朗。いつもはお話、しないの?」 「うん。あんなにいっぱいおはなししないよ」 意外だった。今日、向日葵畑で会った時から、蒼史朗はよく喋ったし、よく笑った。見た目の雰囲気はだいぶ変わったが、そういう所は、昔と全然変わってないな…っと思ったのだ。 「あまねくん、いつもは幼稚園にいるの?」 周は口の周りについたココアを小さな舌でぺろっと舐めて 「うん。ようちえん。おともだちがいっぱいいるから、みんなであそぶの」 「そう……。今日は幼稚園はお休み?」 「こんしゅうはおやすみって、そうくんが。いろいろ、おでかけするからって」 そうすると、休んでいるのは今日だけじゃないのか。蒼史朗は仕事はどうしているのだろう。料理長をしているという店は、行かなくてもいいのだろうか。

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