32 / 126
第32話
身体が揺れる。
何だろう。地震か?
昔の夢を見ていて、まだ目覚めたくない。
ずっとこの柔らかな世界に漂っていたい。
「……やくん、あやくん」
遠くで聴こえていた声が、急に大きくなった。綾は、ハッとして目を見開く。
……どこだ……ここ……。
「あやくん、おねぼうさんです。おきてください」
……っ。そうだ。ここは
あまねの言葉に一気に覚醒した。
綾は慌ててガバッと身を起こすと、もうベッドから降りて、自分を心配そうに見下ろしている周を見つめて
「ごめん、あまねくん。俺、寝ちゃってた?!」
周はにこーっと笑って
「はい。ぐーぐーねてました。あやくん、なんかおしゃべりしてました」
「うわ。ごめん。寝言まで言ってたんだ?まいったなぁ…」
周は小さな手を伸ばしてきて、綾の手をなでなですると
「くるしくないですか?」
「ああ。だいじょうぶだよ。夢みてたんだ」
綾はポケットからスマホを取り出した。時計のデジタル表示を見て、目を見張る。
「えっ、もうこんな時間?ちょっと待って。あまねくん、蒼史朗は?」
時計は19:23を表示していた。
もうお昼寝の時間どころか夜だ。
「そうくん。おそくなるって、これ」
周はスマホを差し出してくる。
覗き込むと、画面には、蒼史朗からの連絡用アプリの文字が表示されていた。
「これ……あまねくんのスマホ?」
メッセージを読んでから顔をあげて周を見ると、周はにこにこしながら頷いて
「はい。あまねのです」
「そうか。蒼史朗、まだ帰れないのか……」
メッセージには「もうすこしかかるから、れいぞうこのおかずをあたためて、さきにたべてくれ」と書かれていた。
周は文字が読めるのか。こんな小さいのに、自分用のスマホを持っているのか。
それにしても、帰宅は17時だと言っていたのに、蒼史朗はまだしばらく帰れないらしい。周を1人置いて、帰らなくてよかった。……いや。寝ほうけていて周に起こされた自分は、子守りの役目は全然果たせていないのだが。
「あまねくん。夜ごはん、まだだよね?」
綾は、急いでベッドから降りて立ち上がった。
「すぐに準備するよ」
「レンジでチン、しました。あやくんも食べるでしょう?」
首を傾げて自分を見上げる周に、綾は苦笑いして
「そっか。もうじゅんびしてくれたの?俺のぶんも?」
「はい。いっしょに食べましょう」
嬉しそうに笑う周に、綾は内心舌打ちした。
……もう……何やってるんだよ、俺。周くんの方がしっかりしてるじゃないか。
ともだちにシェアしよう!