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第32話

身体が揺れる。 何だろう。地震か? 昔の夢を見ていて、まだ目覚めたくない。 ずっとこの柔らかな世界に漂っていたい。 「……やくん、あやくん」 遠くで聴こえていた声が、急に大きくなった。綾は、ハッとして目を見開く。 ……どこだ……ここ……。 「あやくん、おねぼうさんです。おきてください」 ……っ。そうだ。ここは あまねの言葉に一気に覚醒した。 綾は慌ててガバッと身を起こすと、もうベッドから降りて、自分を心配そうに見下ろしている周を見つめて 「ごめん、あまねくん。俺、寝ちゃってた?!」 周はにこーっと笑って 「はい。ぐーぐーねてました。あやくん、なんかおしゃべりしてました」 「うわ。ごめん。寝言まで言ってたんだ?まいったなぁ…」 周は小さな手を伸ばしてきて、綾の手をなでなですると 「くるしくないですか?」 「ああ。だいじょうぶだよ。夢みてたんだ」 綾はポケットからスマホを取り出した。時計のデジタル表示を見て、目を見張る。 「えっ、もうこんな時間?ちょっと待って。あまねくん、蒼史朗は?」 時計は19:23を表示していた。 もうお昼寝の時間どころか夜だ。 「そうくん。おそくなるって、これ」 周はスマホを差し出してくる。 覗き込むと、画面には、蒼史朗からの連絡用アプリの文字が表示されていた。 「これ……あまねくんのスマホ?」 メッセージを読んでから顔をあげて周を見ると、周はにこにこしながら頷いて 「はい。あまねのです」 「そうか。蒼史朗、まだ帰れないのか……」 メッセージには「もうすこしかかるから、れいぞうこのおかずをあたためて、さきにたべてくれ」と書かれていた。 周は文字が読めるのか。こんな小さいのに、自分用のスマホを持っているのか。 それにしても、帰宅は17時だと言っていたのに、蒼史朗はまだしばらく帰れないらしい。周を1人置いて、帰らなくてよかった。……いや。寝ほうけていて周に起こされた自分は、子守りの役目は全然果たせていないのだが。 「あまねくん。夜ごはん、まだだよね?」 綾は、急いでベッドから降りて立ち上がった。 「すぐに準備するよ」 「レンジでチン、しました。あやくんも食べるでしょう?」 首を傾げて自分を見上げる周に、綾は苦笑いして 「そっか。もうじゅんびしてくれたの?俺のぶんも?」 「はい。いっしょに食べましょう」 嬉しそうに笑う周に、綾は内心舌打ちした。 ……もう……何やってるんだよ、俺。周くんの方がしっかりしてるじゃないか。

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