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第33話
キッチンに行くと、調理台の脇のワゴンに、ラップされたおかずの皿が並んでいる。
「これ、あまねくんが温めたの?」
「うん。そうくんがね、つくったやつ。れいぞうこにあるの」
綾はラップをめくってみた。
美味しそうなハンバーグが、ほかほかと湯気をたてている。もう一個の皿には付け合せの野菜とポテトサラダが盛り付けてあった。
「あやくんは、おみそしる、はこんでください」
周は慣れた様子で、車のついたワゴンを押して、とことことダイニングテーブルに向かった。
なるほど。背の低い周の為に、あのワゴンで料理を運べるようにしてあるのか。
……いや。感心してる場合じゃないや。
味噌汁のお椀は別のワゴンの上に乗っているが、これはどうやら蒼史朗が作ったものじゃないらしい。即席の具入りの味噌にお湯を注ぐだけのやつだろう。
周に台所で火を使わせないようにという配慮なのか。
こういうものを見る度に、父子家庭の蒼史朗と周が、普段どんな生活をしているのかが想像出来てしまう。周が何の戸惑いもなく慣れた手つきでそれをこなすのが、見ていてちょっとせつなくなる。
綾は急いでワゴンの上のトレーを外すと、ダイニングテーブルに向かった。
「これ、美味しい……」
2人で囲んだ食卓で、綾はハンバーグをひと口頬張り、思わず呟いた。周は口をもぐもぐさせながら嬉しそうににこーっと笑って
「そうくんのハンバーグ。せかいいちなの」
「ほんとうだね。こんな美味いの、食べたことないよ」
決して大袈裟ではない。噛みごたえがありながら中はふっくらジューシーで、専門店で食べているような美味しさなのだ。
蒼史朗の料理の腕前は、和食だけにとどまらないらしい。
「きみがひとりでおるすばんのときは、いつもよるごはんはこうして食べるの?」
綾はそっと聞いてみた。周はハンバーグをまたひと口ぱくんっと口に入れると、うーん?っと首を傾げ
「いつもじゃ、ないです。そうくんのおしごとの、おともだちのおうちに、いったりするの」
「お仕事の……お友だち?」
「うん。かみのながい、おんなのひと」
綾はフォークに刺したハンバーグをポロッと落としそうになって、慌てて口に放り込んだ。
……髪の長い……女の人……?え……。それって……。
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