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第34話

「そ、その女の人って、蒼史朗の…恋人?」 周はキョトンとしている。 思わず身を乗り出してしまった綾は、ハッと我に返った。 こんな小さな子に、しかも蒼史朗の子に、こんな質問するなんてダメだ。 綾は動揺してしまった気持ちを必死に押し殺した。 「あ……いや。えーと、その女の人と、蒼史朗は、親しい……じゃなくて、えっと、なかよしさんなの?」 周はこくこくと頷いて 「うん。おともだち。そうくん、だいじなひとって、いってたの」 周の無邪気な答えに、胸の奥がツキンっと痛くなる。綾は周から目を逸らし、皿の上のハンバーグをじっと見つめた。 ……そうだよな……。奥さん、亡くなって随分経つんだし、恋人ぐらいいるよな……。 学生時代も蒼史朗はすごくモテた。彼の周りにはいつも、人が自然と集まっていた。本人はあまり特定の相手を作りたがらなかったが、密かに想いを寄せている女子の噂はしょっちゅう耳にした。 綾は、ハンバーグをひとくち分切って口に入れた。もしゃもしゃと咀嚼する。 さっきまで美味しくて感動していたはずなのに、急にすっかり味気なくなってしまった気がした 夕食をゆっくり時間をかけて食べ終わっても、蒼史朗は帰ってこない。 時計を見ると、もう22時を過ぎている。 小さい周は床に入る時間だろう。 ……何やってるんだよ。こんな小さい子1人、留守番させて……。 今日はたまたま自分がいたから独りではないが、いくらなんでも遅すぎる。 ……仕事のトラブルっぽいこと、言ってたけど……。 もしかしたら、周が言っていた女性と会っていたりするのだろうか。 そんなはずはないと思うのだが、だんだん胸の中がもやもやしてきて、いろいろと嫌な想像ばかりしてしまう。 ……ひょっとして、今日は俺が周くんみてられるから、彼女と羽伸ばしてたり……とか? そこまで考えて、綾は慌てて首を振って嫌な想像をかき消した。 ……もう。いい加減にしろよ、俺。蒼史朗は倒れた俺を助けてくれたんじゃないか。あのまま誰も来なかったら、俺、危なかったのかもしれないんだぞ。 もし、仕事の帰りに蒼史朗が彼女と会っていたとしても、自分には関係のないことなのだ。もやもやしたり怒ってる方がおかしい。 綾は気持ちを切り替えて、リビングでお絵描きの続きをしている周に歩み寄ると 「ね、あまねくん。そろそろ寝る時間だよね」 顔をあげた周は、目を擦っている。 「うん。ねむくなってきましたぁ」 「よし。じゃあ寝室に…」 その時、玄関のチャイムが鳴った。

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