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第35話

周にはそのまま座ってるように言って、急いで玄関に向かった。 再び急かすようにベルが鳴る。 鍵を外してドアを開けるなり、綾は口を開いた。 「今、何時だと思って…」 ドアの外に現れた人物を見て、綾はびっくりして途中で口を噤んだ。 蒼史朗だとばかり思い込んでいたが、違ったのだ。 「ごめんなさい。夜分遅くに。あの……あなたは…」 そこにいたのは自分よりちょっと歳上と思われる綺麗な女性だった。 綾は焦って 「あ……すみません、こっちこそ。あの、」 「周くん……いますか?」 女性はちょっと不審そうな顔になり、奥に視線を向けた。 「周くんならリビングにいます。あの、どちらさまですか?」 「ここ、蒼史朗くんの家よね?あなたこそ、どなたですか?」 女性はますます怪訝な顔になって、こちらを睨みつけてくる。 ……や。質問してるの、こっちだけど…… 綾は困惑した。 「あ。俺は蒼史朗の幼馴染で、」 女性が驚いたように目を見張る。 「幼馴染み……。彼の?」 「ええ。今日、出先で偶然ばったり再会して、ここにお邪魔させてもらったんです」 女性は黙り込んだ。綺麗な眉をきゅっと寄せて、何やら思案している。 「あの……貴女はどなたですか?蒼史朗のお知り合いの方?」 「そう……。じゃあ、周くんは一人でお留守番じゃなかったのね」 女性はほっとしたように少し表情を和らげ、独り納得した顔になり 「私は、彼の元同じ職場の同僚なの。沢北千尋と言います。……あなたのお名前は?」 ……蒼史朗の……元、同僚……?それって…… さっき、周が言っていた人だろうか。でも、元同僚って……。 「あ。俺の名前は、瀬崎綾です。蒼史朗とは家が隣で、高校までは仲良くさせてもらってました」 綾はちょっと納得いかないまま、自己紹介を始めた。 その時、奥のリビングのドアが開いて、パタパタと足音が近づいてくる。 「周くん」 「あー。ちーさんだ」 周は無邪気に声をあげると、駆け寄ってきて 「こんばんは」 「こんばんは、周くん。あなた一人でお留守番かと思って、心配で見に来たの」 綾が少し身を引くと、千尋と名乗ったその女性は、玄関に入ってきて、周の前で身を屈めた。 「ありがとうございます。でもだいじょうぶー。あやくんが、いっしょにいてくれたの」 千尋は周の頭を優しく撫でてから、身を起こしてこちらを見て 「もう……蒼史朗くん、何も言わないんだもの。ごめんなさい。疑ったりして。彼、話し合いが長引いててまだちょっと帰れないの。私、周くんのことが心配で帰りに寄ってみたんです」

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