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第39話※

ねだられるままに、水を含んでは口移しする。その度に、単に口移しだけとは思えない濃厚な口付けを交わす。 胸がドキドキして息が苦しい。まるでのぼせたようになっていた。 「……ん……ふ……んぅ…っ」 こんなことでムキになっている自分が馬鹿みたいだ。相手はただの酔っ払いなのに。 蒼史朗の腕が縋るように背中に回る。もう、水を飲ませるのが目的のキスなのか、分からなくなっていた。 ごつごつした指先が背中を這い回り、もう一方の手が腰の辺りをまさぐってくる。 触れられる度に、そこがジンジンと熱を持つ。これはもう、酔っぱらいの世話焼きどころじゃない。 「……っ、まだ、か?もっと?」 「ああ……もっとだ」 いい加減やめておけ、と理性が囁く。 でもそれを打ち消すほどの気持ちよさに、ぐずぐずに溶けていく。 蒼史朗の手が、腰から尻へとおりていく。 擽ったさとは違うゾワゾワする感触に、身体が勝手にピクピクと震えてしまう。 背中に回った手が、不意に離れた。 次の瞬間、綾は思わず呻いて身を捩った。 蒼史朗の指が、シャツの上から胸の辺りをまさぐり始めたのだ。 指先が、興奮し始めた胸の尖りを掠めた。 「……んぁ……っ、や、」 綾は薄目を開けて、蒼史朗の表情を窺った。 ……っ。 蒼史朗はドキッとするような欲情を滲ませた顔をしていた。その視線は自分の胸の辺りを凝視している。 ……や……なに……? 「おまえ……胸がないぞ……」 蒼史朗が唸るように呟いて、シャツの間から手を突っ込む。薄くて平たい胸を、大きな手が鷲掴みにした。 ……っ、胸がないって……。 当たり前だ。男なんだから。 「いたっ、痛い、やめ」 「おまえの胸、こんなに……小さかったか?まなみ」 蒼史朗のもつれるような呟きに、昂っていた心が一気に冷えた。 まなみ。 それは女の名前だ。 この酔っぱらいは、自分をどこかの女と勘違いしているのか。 綾は首を振って蒼史朗から唇を引き剥がし、シャツの中で蠢く悪戯な手をぐいっと握った。 「この……酔っぱらい…っ」 手首を掴んでシャツの中から引っこ抜くと、そのまま蒼史朗の顔に叩きつけた。 「っっっ、いってぇ…っ」 「ふざけんな!何がまなみだっ」 痛そうに顔を顰めた蒼史朗が、驚いたようにこちらを見る。 「……んぁ?」 蒼史朗は自分を見ている。だが、その目はとろんとしていて、何が起きたのか分かっていない。自分が誰なのか、理解出来ていない。 一瞬、殺意に似た怒りがわいた。 「ほんっとムカつく。酔っぱらいっ」 憤る綾に、蒼史朗はぐらりと首を傾げ 「ダメだ……吐く」 その呟きに、綾は驚愕した。 「え?吐く?」 「気持ちわりぃ……吐く」 「ちょっ、ちょっと、待て」 こんな所でこんな体勢で、リバースされたらたまったものじゃない。

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