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第43話

翌朝、目覚めると自分を抱き枕にしていた大男は姿を消していた。 綾は首を傾げ、シーツに手を当ててみる。 ぬくもりも残っていない。 一緒にここで目覚めたら、お互いにバツの悪い思いをするのは分かっていたが、さっさと起きて行ってしまった蒼史朗の態度を、ちょっと寂しいと感じてしまう。 ……バカだな……俺。 甘い夢を見すぎだ。酔っ払って介抱してやったら、そのまま寝てしまっただけの蒼史朗に。 玄関で、ついムキになってしまった口移しの水の甘さの余韻で、勘違いしてしまっているだけだ。 綾は気合いを入れる為に、勢いよく起き上がると、頬を両手で叩いた。 「あー。あやくん。おはようございます」 1階に降りてリビングのドアを開けた途端、元気一杯の周の挨拶に迎えられた。 「おはよう、あまねくん」 周は椅子からぴょこんっと飛び降りて駆け寄ってくると、 「お風呂わいてます」 そう言ってバスタオルを差し出してくる。 「え……風呂?」 「はい。あまねと蒼くんはもうはいりました。あやくんもどうぞ」 綾は戸惑って、蒼史朗の姿を目で探した。 蒼史朗はキッチンにいる。 「蒼、おは」 「風呂、冷めないうちに入ってこいよ」 蒼史朗はこちらを見もしないでそう言った。綾は朝の挨拶をしそびれて、ぷいっと蒼史朗から目を逸らすと、周に向かって微笑んだ。 「うん。じゃあ、もらってこようかな」 「はい」 早々にリビングから出て、廊下の奥の風呂場に向かう。 綾は内心ぷりぷりしていた。 ……なんなんだよ、蒼史朗のあの態度。おはようぐらい言えよな。 朝食の準備中だったのだろう。朝寝坊した自分が悪いのだ。分かっていても、なんだか釈然としない。 ドアを勢いよく開けて脱衣場で裸になり、棚から1枚ハンドタオルを勝手に借りて浴室に入る。 家同様、少し古ぼけた印象だが、マメに掃除しているのか綺麗な浴室だった。意外と広々している。 綾はシャワーのコックを捻って、湯の温度を調節すると、壁際のラックに目をやった。 「シャンプーは……これかな」 注ぎ落ちるお湯で髪の毛を濡らし、ポンプ式のシャンプーを手に出すと、蒼史朗から漂っていた香りがする。綾はすんっと鼻を鳴らすと、髪の毛を洗い始めた。 ……なんか俺、情緒不安定かも。湯船浸かってゆっくりして気持ち切り替えないとな。 泡だらけになった髪の毛にシャワーの湯を浴びていると、背後でガタッと音がした。目を顰めながら振り返ると、浴室のドアが開いて、蒼史朗が覗き込んでいる。 「っっっ」 「悪い。ボディソープ、さっき周と使い切って補充するの忘れてた」 ……ーーーーっ。

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