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第45話
……夢ってどんな内容だったんだろ?
蒼史朗はなんだか怒ってるような気がする。でもあれだけいろいろ面倒を見てやったのに、ムッとされる筋合いはないのだ。
「キス」
「え」
「キスしたよ。結構濃厚なやつ。覚えてないとか信じられないんだけどな」
蒼史朗は息をのみ、つかつかと歩み寄ってきた。
……や。近寄るなって。
「それは……無理やりか?俺が、おまえに?」
綾は後ろを向いたまま首を竦めて
「昼間のお返し。水が飲みたいっていうから口移しに飲ませただけだ」
「それだけか?」
綾は拗ねた気分で首だけ動かし、横目で蒼史朗を睨んで
「おまえ、吐くって言うから洗面所に引きずってった。その後、2階の部屋まで連れて行ってやったら、俺を巻き込んでぐーぐー寝ちゃったんだよ」
蒼史朗は驚いたようなほっとしたような、複雑な表情を浮かべて
「そうか……まったく覚えてない。世話をかけてすまなかった」
「あのさ、身体洗って湯船浸かりたいんだけど」
こんな無防備な格好で、すぐ後ろに蒼史朗がいて落ち着かない。話ならリビングに戻ってからすればいいのだ。蒼史朗は、こっちが裸だろうが全然気にしてないのだろうけど。
「あ……ああ……すまん」
蒼史朗は初めて、この状況に気づいたような顔になり、何故か視線を下に落として
「周の前では出来ないような話になるかもと思ったんだ。……綾」
「……なに?」
「おまえ、わりと着痩せするんだな。細すぎて栄養足りてないと思ったが、意外といい身体だ」
「っ」
綾は唖然として目を見開いた。
いきなり何を言い出すのだ、この無神経男は。
蒼史朗の目線が自分の尻の辺りに向いていて、いたたまれない。
「う、うるさいなぁ。じろじろ見んな」
蒼史朗は頬をゆるませ
「そうか、キスだけか。ならよかった。今朝な、おまえを無理やり抱いている夢を見たんだ。目が覚めたら本当におまえがベッドにいたから、死ぬほど驚いた」
「っ、だ、抱い…っ、馬鹿か、おまえ。俺は男だぞ」
顔が熱い。綾は慌てて蒼史朗から目を逸らした。
「だよな。ちゃんとつくものもついてる。このところそっち方面ご無沙汰だから、血迷っておまえに手を出したかと焦ったんだよ」
……っ。つくものついてるって……見たのか?俺の……
「ゆ……昨夜は……女とお楽しみじゃなかったのか?」
「いや、仕事上の付き合いでな。トラブって予定通りにならなくて……ちょっとむしゃくしゃして飲みすぎたんだ。ほんと、悪かったよ」
蒼史朗はそう言って、肩にぽんっと手を置いてきた。不意をつかれてビクッとなる。これだからノンケは嫌なのだ。その気もない癖に気安く触ってくる。
「なあ、話なら後で付き合う。身体洗うから出てけって」
「ああ。ゆっくりあったまってこいよ」
蒼史朗は納得したのか、そう言って微笑むとようやく浴室を出て行った。
……はぁぁぁ……。
綾は強ばっていた身体から、一気に力を抜いた。
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