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第47話
周はちょっと眉をしかめ
「あやくんは……いっしょにいけないですか?」
「え……」
周は蒼史朗とこちらを見比べて
「あやくんもいっしょにおんせん、いきたいです……」
周の意外なお誘いに、綾は蒼史朗と顔を見合わせた。
「あ……いや、でも、」
「行くか?綾」
「え……。でもホテルの予約が」
「大丈夫だ。予約したのはもともと2人部屋だからな。周はまだ小さいから、エキストラベッド入れてもらえば同じ部屋で泊まれるはずだ」
蒼史朗はなんだか乗り気らしい。
綾は、迷った。
この2人と箱根の温泉宿に泊まる。それはきっとすごく楽しいだろう。想像しただけで、魅惑的なお誘いだ。周は素直で感受性が鋭いから、観光地を回って歩いたらきっと大はしゃぎしてくれるはずだ。
行きたい……。でも……。
「いや、やめておく。今日は俺も、別の予定があるから」
期待に目を輝かせていた周の表情が、一気に落胆の色に変わる。罪悪感に胸がチクチク痛む。
「そうか……。残念だが、仕方ないな」
蒼史朗はあっさり引き下がり、周の身体を抱き寄せた。
綾は、周の目線に合わせて屈み込むと
「ごめんね、周くん。せっかくさそってくれたのに。こんどまた、よていをたてていっしょにいこう?」
しょんぼりしていた周が、目をくりくりさせた。
「こんど……いっしょにいってくれますか?」
「うん。やくそくするよ」
周はぱ~っと笑顔になって
「じゃあ、あやくん。やくそくのゆびきりげんまんです」
小さな小指を差し出してくる。綾は自分の小指を絡めた。
「ゆびきりげんまん。うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」
周の泣きそうな顔が、一気に可愛い笑顔に変わって、綾はほっとした。
今度、が、いつになるかは分からない。
でも、周との約束は絶対に守らないと…と心に刻んだ。
食べ終わった食器を3人で片付けると、蒼史朗が大急ぎで旅行の準備をするのを待って、一緒に家を出る。
最寄りの駅までは、蒼史朗に車で送ってもらった。
切符を買って、改札の前まで来ると、周はちょっと泣きそうな顔になり、脚に抱きついてきた。
「周くん。いろいろありがとう。すごくたのしかったよ」
綾はしゃがみ込んで周の頬を優しく撫でる。周は潤んだ瞳でこっちを見上げた。必死で泣くまいとしているのが、いじらしくて可愛い。
「たのしかったです。またぜったいきてください」
「うん。おはなししたくなったらLINEをおくって。でんわでもいいよ」
「はい」
目を潤ませて頷く周をぎゅっと抱き締めてから立ち上がり、蒼史朗に目を向けた。
「ありがとう」
「こちらこそ。いろいろすまなかった」
「じゃあ、また」
綾は2人に笑顔で手を振ると、未練を断ち切るようにくるりと背を向けて、改札に向かった。
第1部「向日葵畑で君に逢えたら」ーENDー
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