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第6話

翌朝、ベッドで目を覚ますと、岬の姿は消えていた。 綾は節々の痛みを堪えながら、ようやくの思いでベッドから抜け出した。 結局あの後も、半分寝た状態で岬に好き勝手弄ばれた。文句を言うのも抵抗するのも、かえって岬の興奮を煽るだけだと分かっていたから、大人しく身を任せて終わるのを待っていた。 全身が鉛になったように重くて気怠い。 歩く度にあらぬ所が痛むのは、少し傷がついているのかもしれない。 岬がいなくなっているのは想定内だったから、別に慌てる必要もない。彼はいつも気紛れにここに帰ってきては、また誰か別の女の所にでも転がり込むのだ。 壁に手をつきながらノロノロとキッチンに向かった。流しには岬が食べたのだろう。持ち帰りの惣菜や弁当の空容器が、そのまま残されていた。 「せめてゴミ箱に捨てていけよな……」 綾は誰にともなく独り言の文句を呟くと、容器を水でざっと洗い流してゴミ箱に突っ込んだ。 ノロノロと冷蔵庫を開けて覗いてみても、自分が食べられるような惣菜は見当たらない。ただ、コンビニで買ったのか、パックに入ったいちごのショートケーキがポツンと置かれていた。誕生日用に岬が買ったのだろう。 パックを取り出して、流し台の上に置いた。じっと見つめていたら、哀しくもないのに涙が滲んでくる。 可哀想な岬。 可哀想な自分。 擦り切れてすれ違ってしまった2人の関係は、もう修復出来ない所まできている。 「もう……終わりにしよう?岬」 綾はいちごのショートケーキに話し掛けた。答えはない。当たり前だ。 コーヒーメーカーでいれた珈琲をカップに注ぎ、ダイニングテーブルに向かった。 椅子にそーっと腰を下ろし、ツキンっと走った痛みに顔を顰める。 「薬……塗っとかないと」 綾はコーヒーをひと口啜ってから、再び立ち上がった。奥の壁際にある大きなラックの下の扉を開く。救急箱の中から軟膏を取り出し、ふと、開き扉の上の引き出しに何か挟まって少し飛び出ていることに気づいた。 あの引き出しは……。 綾は、ハッと目を見開き、急いで引き出しを開けてみる。中をゴソゴソと探ってみた。 ……ない。 綾がコツコツ貯めていた貯金通帳がなくなっている。 ……岬だ。 前にも何回かやられてる。 岬がまた、通帳と印鑑を持ち出したのだ。 何度かやられて、その金が戻ってくることもあったが、大抵はいつも有耶無耶になる。だから綾は用心の為に、その通帳とは別の通帳を作って、キッチン天井の換気口の脇に印鑑とは別に隠しているのだ。 綾は眉を顰め、キッチンの方を振り返った。 ……まさか……。

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