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第8話
有給休暇は3日間取っていたから、残りの2日間はマンションに篭って、寝たり起きたりしながら過ごした。
傷は軟膏を塗っただけだった。こんな所の傷を、医者に診てもらう勇気はない。
案の定、午後から少し熱を出して、コンビニに行くことも出来なかった。
何度も寝て起きてを繰り返し熱が少し下がると、さすがに腹が減ってきて、キッチンの棚からスープの缶詰を取り出し、鍋で温めた。
冷凍庫に突っ込んでいたフランスパンの残りを、オーブントースターで温めて、スープと一緒にもそもそと食べた。
病院には行けないが、有給休暇が終わればまたハードな仕事が待っている。何とか自力で身体を治して、また頑張って働くしかない。
岬のことも、預金通帳のことも、考えないようにした。
考えたって哀しくなるだけだ。
休暇最終日の夕方にはやっと平熱に下がり、身体の痛みもだいぶマシになった。
綾はリビングの隅に放ったらかしにしていたカメラバッグを持ってきて、ソファーに座って向日葵畑の写真を1枚ずつチェックしてみた。
「へえ……いいじゃん」
思わず、頬がゆるんだ。途中で熱中症になりかけて中断してしまったが、その前に撮れていた写真はどれも、自分で思っていた以上の出来栄えだった。
画像を全部チェックし終えると、だいぶ気分が持ち直していた。
嫌なことがあっても、こういう楽しさを知ってからは、現実逃避も以前より上手くなった気がする。
「とりあえず、データを保存しておくか」
寝室の奥に小さな納戸があって、そこにカメラ関係の機材や資料はまとめて置いてある。その手前のデスクには最初の就職の時の初ボーナスをはたいて買った、デスクトップのパソコンがある。
綾は立ち上がると、奥の寝室に向かった。
自分としてはかなり思い切って買ったパソコンだったが、今では機種が古くなっていて、使う分には支障はないが、岬が持ち出して売っても二束三文にしかならない。
前回のボーナスで新しいパソコンを買おうかかなり悩んだが、どうせ岬に盗られるなら、パソコンを買えばよかった。
つい、余計なことを思い出してしまって、また少し気分が落ち込んでくる。
綾は首を振って嫌なことを頭から締め出し、寝室の奥のパソコン用デスクの椅子を引き出した。
パソコンを立ち上げようとして、スマホが何かの通知を告げているのに気づき、ポケットを探る。
通知はLINEの着信だった。
開いてみると「周」とある。
「周くんだ」
綾はいそいそとLINEのページを開いた。
そこには周の「あやくんへ」という言葉と一緒に、たくさんの画像が送られてきていた。
「わ……」
綾は思わず、顔を綻ばせた。
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