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第11話

結局、あれから悪寒が止まらず、ベッドに潜り込んで朝まで眠っていた。 朝、汗びっしょりで目が覚めて、ふらつきながらリビングに行き、熱を測ってみる。 37.2℃。思ったよりは高くない。 「仕事……行けるかな……」 一応、解熱効果のある風邪薬を水で流し込み、風呂場に向かう。 汗でへばりついた髪の毛が気持ち悪い。 熱があるのにシャワーは微妙だったが、髪の毛を洗ってスッキリしたかった。 「ふぅ……」 シャワーを浴びてさっぱりすると、気分もだいぶ良くなった。 この分なら何とか仕事には行けそうだ。 苦手な接客を必死にこなして、ようやくチーフエリアマネージャーになれたのだ。 昇給もして、今の仕事は順調に軌道に乗っている。 自分は要領のいいタイプではなく、真面目さだけが取り柄だと分かっているから、有給の後で体調不良で休むのだけは、何としても避けたい。 ……薬飲んじゃったけど……なんか腹に入れていった方がいいよな……。 正直、食欲はまったくない。 でも、仕事の途中で倒れるわけにはいかないのだ。 綾はため息をつきながらキッチンに行き、昨夜炊いたご飯を少し茶碗によそった。 せっかく買った惣菜は、揚げ物だから食べられそうにない。 湯を沸かして即席味噌汁を作ると、ご飯の上にかけて無理やり流し込んだ。 スーツに着替えて髪の毛を整え、歯を磨いたら、気持ちが引き締まった。 「大丈夫だ。頑張れ、俺」 鏡の中の自分に言い聞かせて、無理やり笑顔を作ると、bagを持って玄関に向かった。 今日は直接、担当エリアの店舗に向かって、店長と打ち合わせをしてから事務所に出社する予定になっていたが、店長に電話してもなかなか出ない。 急な予定変更でもあったのかと事務所に確認の電話をしたが、何度掛けても留守電になってしまう。 店舗の方は事務所より始業が1時間遅いから、先に事務所に向かうことにした。 最寄り駅で電車を降りて、徒歩10分ほどで事務所に到着すると、ビルの入り口のシャッターが降りていた。その前に人だかりがある。 首を傾げながら綾が近づくと、人だかりの中から同期の1人がひょいっと顔をこちらに向けた。 「おはよう、大澤。どうしたんだ?これ」 綾が声を掛けると、同期の大澤が駆け寄ってきて 「大変だよ、瀬崎」 「え……」 「うちの会社。潰れたみたいだ」 綾は目を見開き、青い顔をした大澤が指さすシャッターに目を向ける。 そこには、1枚の白い紙が貼り付けられていた。

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