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第14話

「なあ、本当に大丈夫か?瀬崎、顔色悪いよ?家まで送っていくか?」 店を出て駅に向かう途中、大澤はしきりにこちらの体調を気にしてくれた。 具合が悪いのは間違いないが、今は早く部屋に帰って1人になりたかった。 何も考えずに、布団を被って眠ってしまいたい。 「いや、大丈夫だよ。ありがとう」 「お互い災難だったけど、頑張ろうぜ。課長と連絡取れていろいろ状況分かったら、おまえにも連絡するよ」 「うん。ありがとう。じゃ」 改札で手を振って大澤と別れてホームに向かう。この時間帯だと電車は比較的空いている。端っこの座席に腰をおろすと、一気に気が緩んだ。ずるずると床に滑り落ちてしまいそうになる身体を、足を踏ん張ってようやく支え、綾は壁に寄りかかった。 今後のことなんて、どうでもいい。 努力が報われることなんか、きっとないのだ。 放心しているうちに、そのままいつの間にか眠ってしまっていた。 肩を揺すられて、ハッと目が覚める。 駅員が告げた終点の駅名を聞いて、綾は呆然とした。 知らぬまま、いったん折り返した電車内でも眠りこけていて、家とはまったく逆方向の隣の県まで来ていたのだ。 駅員に謝り、慌てて電車から降りる。 時刻表を確認すると、自分の家の最寄り駅に向かう電車が来るまで、まだ40分もある。 綾は力なくホームのベンチに座り込んだ。 ……何やってるんだよ……俺。 かなりの時間眠っていたのに、身体の怠さはかえって増していた。 そのまま、10分ほど項垂れていると、不意に、ポケットのスマホがLINEの通知を告げた。 画面を見ると、周からだ。 急いでLINEを開くと 「あやくん。うちにあかいおおきなくるまがきたの」 綾は、眉を顰めた。 ……赤い……大きな……車……? その言葉で真っ先に思い浮かぶのは、消防車だ。 メッセージはそれだけだった。 ……蒼史朗の家に……消防車……。まさか……火事? 綾は息を飲み、教えてもらった周の番号に慌てて電話した。 呼出音が鳴り続けるだけで、周は出ない。 「嘘だろ……」 心臓がドキドキする。 もしかしたら、周は家に1人でいて、火事になって逃げ遅れているのかもしれない。 全身から血の気がひいた。 急いで蒼史朗の番号に電話してみる。 こっちも……出ない。 「嘘だろ……嘘だ」 綾は立ち上がり、蒼史朗の家の最寄り駅に向かう電車の時刻表を調べた。 この駅から、別の線に乗って3つ先で私鉄に乗り換えたら行ける。 綾は、階段に向かってよろよろと走り出した。 身体の怠さなんか吹き飛んでいた。 それどころじゃない。 周が、蒼史朗が、火事で逃げ遅れているのかもしれない!

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