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第15話

蒼史朗の家の最寄り駅に着くと、改札を抜けて駅前のロータリーから迷わずタクシーに飛び乗った。 周のLINEはあのメッセージで止まったままだ。電話は……折り返しの着信を待っていたが沈黙している。 電話番号をスマホに登録する時に、周は家の住所も教えてくれていた。 恐らく蒼史朗から教わったのだろう。ちょっと得意気に漢字で、紙に大きく書いて渡してくれたのだ。 綾は、財布に仕舞っていたそのメモ用紙を取り出し、開いてみた。元気一杯にのびのびと書かれたその文字を見ているだけで、じわっと涙が滲んでくる。 ……頼む。お願いだ。無事でいてくれ。頼む。 綾はその紙を胸に押し当てて、心の中で必死に祈った。 今日は朝から最悪の1日だった。 いや、一昨日からずっと、悪いことばかり続いていた。 でも、いくら何でもこんな酷いことまで起きる必要はないじゃないか。 ……周くん。蒼史朗。お願いだから……っ タクシーが大通りから脇道に入り、見覚えのある通りが続く。 あと少しで蒼史朗の家だ。 タクシーが停まる。 綾は、窓の外を呆然と見つめた。 ……え……。 「お客さん、ここじゃないんですか?」 「あ……。いえ、すみません。ここです」 運転手に促されて、綾は慌てて表示された金額を確認して財布からお札を取り出す。お釣りをもらって外に出ると、タクシーは走り去って行った。 綾はふらふらと、蒼史朗の家の門に歩み寄った。 ……どうして……? ここは間違いなく、蒼史朗の家だ。 でも、炎も煙も出ていない。 門を開けて恐る恐る中に入ると、広い庭の北側に、真っ赤な車が見えた。 ……違う……。これ……消防車じゃ、ない。 綾は、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。腰が抜けたようになって下半身にまったく力が入らない。 その上、くらり……と目眩を起こして、地面に手をついた。 ……あ……ダメだ……。 そう思った瞬間、ブラックアウトした。 「あやくん……」 周の声が聞こえた気がして、綾はパチッと目を開けた。 すぐ目の前に、周の泣きそうに歪んだ顔がある。 目が合うと、周がぱーっと笑顔になった。 「あやくんっ。め、あけた!」 「お。気がついたか」 嬉しそうに叫ぶ周の後ろから、今度は蒼史朗が覗き込んでくる。 綾は、パチパチと瞬きした。 「綾。分かるか?俺だ、蒼史朗だ」 前にもこんなことがあった気がする。 綾は、2人の顔を見つめながら、ぼんやりと考えていた。 つい、最近だ。 これと全く同じことがあったはずだ。 「……蒼……」 「うん。俺だ。今、救急車を呼ぼうとしてたんだ」 綾は、もう一度瞬きをすると、掠れた声で呟いた。 「大丈夫。呼ばなくて、いい」 「だがおまえ、熱がかなりあるぞ。一度病院に行った方がいい。救急車じゃなくて俺が車で連れて行くから」 ……車……。赤い……車……。

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