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第16話
綾はハッと目を見開いた。
そうだ。赤い大きな車だ。
夢から覚めたように、一気に記憶が繋がっていく。
周のLINEメッセージを読んで、てっきり消防車だと思ったのだ。
でもさっき、庭の駐車スペースにあったのは、よく似た色と形だったが、消防車ではなかった。
「蒼、庭の、赤い車って……」
蒼史朗の手が伸びてきて、おでこに手のひらを当てられる。綾はビクッとなって口を噤んだ。
「やっぱり熱が高いな。驚いたんだぞ。周が庭になんかいるっていうから出てったら、おまえがガレージの前でのびてたから」
綾は、ドキドキして目を伏せた。
「あ……ごめん……気が抜けちゃって……」
「まさか突然来るなんて思ってないからな。でもおまえ、電話くれてたんだよな。車届いて業者から説明受けてたから、スマホは家の中に置きっぱにしてた。気づかなくてごめん」
「あ……ううん」
綾はもごもごと口ごもった。
恥ずかしい。勘違いだったのだ。
火事ではなかった。
周のメッセージの赤い車は、消防車じゃなかったのだ。
落ち着いてちゃんと確認すればよかった。
熱で頭がぼーっとして、冷静に考えられなかった。
……でも……よかった……。
最悪な流れで、最悪な結果にならなかった。そう分かっただけでも充分だ。
遠の昔に信じなくなった神様に、今回ばかりは感謝したい気持ちだ。
「俺、勘違い、したんだ。周くんからのLINE見て、赤い大きな車が来たっていうから……消防車だと思った。それで……もしかしたら火事になって周くん、逃げ遅れたのかも?って……」
ぼそぼそと言い訳しながら、どんどん恥ずかしさが増していく。
バカみたいだ。もし火事だったとして、1時間もかかって自分が駆けつけたとしても、助けることなんか出来なかった。
本当に火事なら、周がのんびりメッセージを打つ時間なんかなかっただろう。
落ち着いて考えてみれば分かることなのに……。
突然、蒼史朗に、肩をガシッと掴まれた。
「それでおまえ、心配で来てくれたのか?」
「あ……あー……あはは。ごめん。ものすごい、勘違いしちゃって、俺、」
「綾……」
ぐいっと蒼史朗に引っ張られた。
「……っ」
びっくりした。
抱き締められている。
蒼史朗の逞しい腕に。
「綾。悪かった。泣くな」
……え……?
「驚かせてごめんな」
……え……俺……泣いてる?
ほっとして気が緩んだのだ。
だって、周も蒼史朗も無事だった。
心配したのだ。胸が潰れそうなくらい。
周の笑顔をもう一度見れてよかった。
2人とも無事で、本当によかった。
綾は、蒼史朗の胸に顔をぎゅっと押し付けた。
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