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第18話

「天ぷら……?」 綾は、首を傾げた。 移動販売というと、自分の中のイメージは、夏祭りやイベントでたこ焼きや焼きそばを売ったり、ホットドッグを売っている店、という感じだ。車で食べ物を売るイメージだと、一番に思い浮かぶのは焼き鳥とか焼き芋だった。 ……あの、屋台みたいな雰囲気で……天ぷら? ダメだ。想像がつかない。 自分は変な顔をしていたのだろう。 蒼史朗はこちらを見て苦笑すると 「イメージ出来ないか」 「や。うーん……。そうすると、あの赤い車の中で天ぷらを揚げるってこと?」 「そうだな。その為に必要な設備を、中古の内装に追加で作ってもらってたんだ」 「ふーん……。あの車の中で、天ぷらか」 蒼史朗はもう一度タオルを絞り直して、額の上に乗せてくれて 「綾。話は後にして、おまえもう1回ちゃんと寝ろ。熱が下がって顔色がよくなったら、実際に揚げる所、見せてやるから」 「えっ」 驚いてまた起き上がりかけ、額の上のタオルがズレる。周が小さな手ですかさず、直してくれた。 「見れるのか?実際に作ってるとこ」 蒼史朗は少し呆気に取られたような顔になり、くくっと笑って 「興味あるのか?おまえがそんな反応するとは思ってなかったな。ああ、後で見せてやるよ。まずは大人しく寝て熱を下げろ」 楽しそうに言われて、綾はまた子供みたいな反応をしてしまった自分が恥ずかしくなり、掛け布団をもぞもぞと目元まで引き上げる。 「わかった。……寝る」 「いい子だ。目が覚めたら特製のお粥を食わせてやるからな」 ……いい子って……。俺は周くんじゃ、ないんだぞ。 楽しげに自分を子ども扱いする蒼史朗を、綾はちろっと睨むと、素直に目を閉じた。 「どうだ?熱は」 綾は体温計を見てから蒼史朗に渡し 「37℃。まだ微熱だけどだいぶ楽になったかも」 「4時間ぐらいぐっすりだったからな。さっきより顔色もだいぶいい」 「ごめん……面倒かけて」 綾が起き上がろうとすると、蒼史朗が腕で背中を支えて起こしてくれた。 「いや。たいしたことはしてない。それより綾、病院はどうする?今ならまだ診察時間に間に合うぞ」 綾はうーん…っと首を傾げ 「いいや、病院は。体調不良の原因はわかってるから。風邪気味なのに仕事でちょっといろいろあって……参ってたんだ」 「そうか……。腹は、減ってるか?」 「特製のお粥……作ってくれたのか?」 「ああ、覚えてたのか。もし食えるなら腹に入れとけ。薬も飲んだ方がいいからな」 「うん。ありがとう。ご馳走になるよ」 綾がベッドから降りようとすると、蒼史朗が腕を掴んですかさず支えてくれる。 こんなに優しくされると、なんだか戸惑ってしまう。勝手に誤解して押しかけて、勝手にぶっ倒れただけなのに。 ……岬とは大違い……だよな……。 比べてはダメだ、と思っているのに、ついそんなことを考えてしまった。

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