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第21話
庭の北側ガレージに行くと、気を失う前に見た赤い車は、記憶とは違う形に変身していた。
綾は目を丸くしながら、まずは外側をぐるっと回ってみた。
大きさは、消防車というよりは、街でよく見かけるちょっと大きめの宅急便の車だ。前には運転席と助手席だけの狭いスペースがある。
後ろは箱型になっていて、幅は思ったより広くない。普通乗用車ぐらいだろう。
変形しているのは側面の片側だ。真ん中辺りから、上に跳ね上げるタイプの扉になっていて、あげると扉がひさしの代わりになる。中にはガラス窓が4枚はめ込まれていて、左右に開くと中からお客さんの対応が出来るらしい。箱型の車はこじんまりとしたお店の形になっていた。
綾は、窓から中を覗き込み
「へえ……すごいな。こんな風になってるんだ」
中にいる蒼史朗は手元のボウルを菜箸でかき混ぜながらにやっと笑った。
「ちゃんと店になってるだろ?」
「うん。ここから注文を受けて作って出すんだな」
「そ。焼きそばとかたこ焼きなんかはある程度作り置きもしておけるけど、うちは天ぷらだからな。注文貰ってから揚げる方式にしたい。焼き鳥の移動販売なんかも同じだろ?」
「あ~。たしかに。あれも注文受けてからその場で焼いてるな」
「中、入って来いよ、そっちのドアから」
蒼史朗が指さしたのは車の後ろ部分だ。
綾は周と一緒に移動して、細めに開いていたドアを開け放った。
「うわ」
すごい。外から見るとそれほど広く感じなかったが、長身の蒼史朗が身を屈めずに立てるようになっていて、作業台や冷蔵庫、棚なども設置してある。使い勝手を考え抜かれた機能的でコンパクトな厨房といった感じだ。
「ステップ上がってこい。高さがあるから足元気をつけろよ」
「すごいな……。こんなに設備が入っててちゃんと動けるのか……」
綾は中に入るとぐるりと見回した。
さっき覗き込んでいた窓の内側はステンレスの作業台だ。その横には天ぷらを揚げるフライヤーが2曹並んでいる。
運転席の上の部分は棚になっていて、食材を並べておけるらしい。その横には小型冷蔵庫が置かれていた。通路を挟んでフライヤーの向かいには流し台がある。その横の作業台には、焼きそばを作る時のような鉄板まで設置されている。動線は真ん中の通路のみ。そこに立てば、全ての機能を使える配置になっていた。
「火をつけてるからちょっと暑いだろ」
「うん。でもすごいな。換気扇が2箇所もある。へえ。こっちにも小さい窓があるんだ」
「これ全部、機能的に設置する改修に時間がかかったんだ」
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