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第22話

「おまえ、怠かったらそこの椅子を引き出して座ってろよ」 蒼史朗に言われて後ろを振り返ると、簡易の折りたたみ式チェアまであった。 「すごい。ほんと、すごいよ……」 綾は、バカみたいに同じ言葉を繰り返していた。本当に感動したのだ。想像をはるかに超えた機能的なキッチンだった。ここなら天ぷらを揚げるという言葉も納得だ。下手なアパートの申し訳程度のキッチンよりも、本格的な設備だった。 「ふふ。おまえの反応が周と同じぐらい素直で嬉しいよ。よし、じゃあ、実際に天ぷら揚げてみるぞ」 綾は目を輝かせて頷いた。 蒼史朗は下処理を済ませた海老を箸で摘み上げ、粉の入ったバットにつけてから、衣用の大きなボウルにくぐらせ、油の中に入れた。フライヤーは手前が浅瀬のようになっていて、ジュワッと音をたてている海老に箸で上から衣をちょんちょんとつけて形を整え、そのまま奥の深い場所にすいーっと泳がせる。 その一連の作業には迷いも淀みもなく、蒼史朗の慣れた手つきがものすごく格好いい。 ……うわ。職人って感じする。 口に出したら怒られそうな感想だが、実際の手際を見せてもらって、ようやく蒼史朗がプロの料理人なのだと実感したのだ。 「格好いいな……」 思わず呟いた。隣で周が首をぴょこぴょこ振って 「ね、ね。そうくん。カッコイイでしょー」 「ああ。すごい。手の動きがプロだ」 綾のひと言に蒼史朗が吹き出した。 「おまえそれ、絶対に言うと思ったよ」 綾は慌てて口に手をあてた。 「2年の時同じクラスだった三枝将太、覚えてるか?」 蒼史朗は鮮やかな手つきで海老を次々に油に投入すると、次は下処理したキスを衣にくぐらせている。 「将太か。懐かしいな。もちろん覚えてるよ」 「あいつがさ、前に偶然、俺が最初に働いてた店に食いに来たんだ。そこは客の目の前で天ぷらを揚げる座席があるんだけどな。俺が揚げてるの見て、将太のやつ、おまえとまったく同じこと言いやがった」 綾は首を竦めて 「だって蒼。昔のおまえと料理人って、どう頑張っても結びつかないだろ?」 「まあな。自分が一番意外だって思ってるんだから無理ないけどな」 綾は、油からさっと引き上げ網のバットに並んでいく海老天を、身を乗り出して覗き込み 「わ。綺麗だな。衣の付き方が芸術的」 「ここが浅瀬になってるだろ?いったんここで身を真っ直ぐにして、箸で衣をまぶしながら華を咲かせるんだよ」 「テレビでは見たことある。でも実際に見たのは初めてだ」 蒼史朗はキスを揚げ終わるといったん菜箸を置いて 「食べてみろよ。天ぷらは揚げたてが一番美味いんだ」

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