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第23話

綾はバットの上に綺麗に並んだ海老の天ぷらをじっと見つめた。 本当に食べるのが勿体ないくらい綺麗な海老天だ。 「あまね。おまえも食べろ」 「うんっ」 綾は海老天を摘み上げて周に渡してやると、自分もひとつ手に取ってみた。 「体調悪いなら揚げ物は厳しいか?」 蒼史朗に顔を覗き込まれて綾は慌てて首を横に振り 「や。大丈夫。たくさんじゃなきゃ食べられる。多分」 口に咥え歯を立てる。揚げたては熱かった。少し加減しながら噛むと、チクチクしそうな衣が、口の中でサクッと軽い音をたてる。ひと口噛みちぎって咀嚼すると、中の海老のぷりぷりっとした食感、そして海老の味が濃厚に口の中に広がっていく。 「あ……美味い……」 綾は目を見張り、覗き込む蒼史朗の目を見つめ返した。 「美味いか」 綾は口をもぐもぐさせて咀嚼したものをごくんっと飲み込むと 「すごい美味い。なんだこれ、海老の味が濃いんだけど」 蒼史朗は満足そうに目を細め 「だろ?どんな海老使うか、かなり時間かけて選んだんだ。ある程度安定して手に入りやすくて、コスト的にも妥当で、でも天ぷらにした時に一番旨味が感じられるやつ」 綾はもうひと口齧って、ゆっくりと味わいながら咀嚼した。 天ぷらは立ち食いそば屋とかうどんの店で食べてはいるが、揚げたてのこんなにさっくりと軽い食感の海老天なんて食べたことがない。海老の味が濃厚なのも驚いたが、衣が違うのだ。粉の自然な甘みが感じられて、素材の海老の旨味を引き立てている。 綾は衣だけ摘んで食べてみた。 美味しい。油っこさや変にもたれる重さがない。 「この衣って、なんか特殊な粉とか使ってるのか?」 「いや。普通にスーパーで売ってるメーカーのだ。ただ一応あちこち試してみて、一番サクッと揚がる小麦粉を選んだけどな」 「ふーん……。油は?」 蒼史朗は何故か不思議そうな顔をして 「おまえ、随分興味あるんだな」 「え。そうかな。普通だと思うけど……」 「油はちょっと拘ってる。軽さが出る米油にコクと香りのいいごま油をブレンドしてるんだ」 綾はフライヤーの方に鼻を向けくんくんと香りを嗅ぎ 「あ~。そっか。ごま油か、このいい香り。なるほどな」 「キスも食べてみろ。こっちは小ぶりだが身がほくほくしていて食感がいい」 綾は勧められるまま、キスも周に手渡してから自分も齧り付き 「うん。こっちも美味い。揚げてるのに固くならないんだな。すごくジューシーだ」 蒼史朗は海老天を摘んで口に放り込むと 「天ぷらは究極の蒸し料理なんだ。素材の旨味や水分や栄養を損なわずに、衣の中でぎゅっと凝縮させる。野菜天も美味いぞ」

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