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第26話
用意した材料を全て揚げ終えると、蒼史朗はフライヤーの火をいったん止めてから、
「ここの片付けは後にして、とりあえず家の方に戻るぞ。綾、おまえちょっと辛そうだ」
「え……?」
「ここ、暑いだろ。おまえ、のぼせたような顔してるぞ」
綾は驚いて、自分の頬に手をあてた。蒼史朗のやることに夢中になっていて、体調が悪いのなんか忘れていたのだ。
蒼史朗はす…っとおでこに手をあてて
「少し熱があがってるな。無理するな」
「あー……うん、ごめん」
蒼史朗は周を抱きかかえて車内からおろすと、出来上がった天ぷらのバットを手にキッチンカーから降りた。
綾もそれに続いて車から降りる。
弾むような足取りで玄関に向かう周に続いて、蒼史朗と並んで歩いた。
蒼史朗はふう…っとため息をつくと
「綾。おまえのおかげで、俺も楽しかった。実はこの起業の話な、次から次へと問題が出てきて、なかなか思うように進んでいなかったんだ。正直、何度か諦めかけたりしてた」
「え……そうなのか?」
表情を曇らせた綾に、蒼史朗はにかっと笑って
「うん。だから久しぶりに何だかすごくテンションがあがったよ。おまえのおかげだ、綾」
嬉しそうに笑う蒼史朗に、綾は慌てて目を逸らし
「や……。でも俺、別に何もしてないし」
「おまえがさ、関心持ってくれて、いろいろ聞いてくれただろ?今までずっと1人であれこれ構想練ったりしてただけだったから、話を聞いてくれて嬉しかった」
蒼史朗のこういう率直な所が、自分にはいつだって眩しかったのだ。なんのてらいもなく感謝の気持ちを伝えてくれる。こっちが照れてしまうほどに。
綾は口の中でごもごも返事をして、目を伏せた。
冷房の効いたリビングに戻ると、キッチンカーの中がかなり暑かったのだと気づいた。
ダイニングの椅子に腰をおろし、綾はほぉ…っと吐息を漏らす。
楽しくてすっかり夢中になっていたが、また少しクラクラしてきた。蒼史朗の言う通り、熱があがってきているのかもしれない。
「綾。夕飯はこれで天丼を作るつもりなんだが……おまえは無理か?」
「あー……。ごめん。俺、試食だけで腹いっぱいかも」
「だよな。体調悪いのに揚げ物なんか食わせてまずかったかな」
綾は胃を押さえて
「さすがに腹いっぱいだけど……でも全然もたれてないんだ。おまえの天ぷら、すごくカラッとしてて全然重たくないよな」
「油も新しいからな。綾、しんどいならちょっとソファーで横になってろ。俺は少し車ん中片付けてくるから」
「うん。じゃあお言葉に甘えて」
なんだかぼーっとする。
綾は素直に立ち上がった。
ふらつく身体を、蒼史朗が支えてくれた。ソファーにごろんと横になる。
目を瞑ると、知らないうちにまた眠りに引き込まれていった。
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