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第29話
「うわ」
ドアを恐る恐る開けた途端に、脇に積んであったダンボール箱が雪崩落ちてきた。
「あやくん、だいじょうぶ?」
すぐ側にいた周にぶつからないように、咄嗟に手を伸ばして箱を支え、綾は苦笑いして
「すごいね。こんなとこまでいっぱいか」
周を後ろに庇いながら、箱を元の位置に戻す。周はくすくす笑いながら
「そうくん。おかたづけしないと、って」
「うん。ちょっとテキトーに積みすぎだよね」
綾もくすくす笑うと、ダンボールの山を掻き分けながら奥へと進む。
「おい。覗き見か?」
ドアの方から蒼史朗の声が響く。綾が慌てて振り返ると、蒼史朗は苦笑いして
「後で片付けようって思ってたらさ。いつの間にか収集つかなくなってた」
「これ、全部、包材関係?」
「いや。調理器具とか備品とか、届いた順番に放り込んでいったんだ」
綾は呆れたようにため息をつくと
「これじゃ、何処に何があるのか分かんないだろ」
蒼史朗は首を竦めて
「だよな。ネットで出来るだけ安い包材探してたら、まとめて買う方が送料浮くもんだから……つい、な」
綾は両手を前で組んで蒼史朗を睨みつけ
「おまえ、昔から片付け苦手だったよな。あのさ、俺、手伝うからちょっと整理しちゃおうよ」
「や。おまえ、だって、具合が、」
「さっき熟睡したから大丈夫。明日は職探ししようと思っててさ。俺、実は失業しちゃったんだよね」
「ええっ?失業って、おまえ、」
綾はぷんっと頬をふくらませ
「今朝いつも通りに仕事に行ったら、事務所閉まってて貼り紙されててさ。酷いだろ?事前に何も説明なしで、いきなり倒産だよ?」
綾は言いながら、部屋の奥の空いているスペースに、テキトーに積まれた箱をおろして
「これ、開けて中身、整理していくよ?」
「あ、ああ。いや、それよりおまえ、失業したなら、こんなことしてる場合じゃないだろ」
「うん。してる場合じゃないんだけどさ。今日はもうジタバタしても仕方ないもんな」
綾は独り言のように呟きながら、ダンボールのガムテープを馴れた手つきで引っペがしていく。蒼史朗はまだ戸惑った様子で、横のダンボールを床におろすと
「おまえ、随分と手際がいいな」
「うん。潰れた会社、アパレル関係メインのチェーン店だったから。その前に働いてたのはダンボールの製造会社。こういうの扱うのは慣れてるんだよ。あ、蒼はさ、開けた箱から中身出してそっちに並べてって。品目毎に箱に入れ直して在庫管理出来た方がいいだろ?」
「お……おう」
しばらく無言のまま、ダンボールの中身を部屋の隅に並べていった。
周は綾が外したガムテープを丸めてゴミ袋の中に入れたり、中身を蒼史朗から受け取って部屋の隅に運んだりしながら、ちょこまかと2人の間を行き来していた。
「よし。これで一応全部出したよな?」
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