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第30話

「あっという間だな。凄いよ、おまえ」 ほっとため息をつく蒼史朗に、綾はクスッと笑って 「こういうのってさ、自分だけでやろうとすると進まないだろ?あ、あまねくんもお手伝い、ありがとうね」 「はいっ」 綾が微笑みながら周の頭を撫でると、周は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。綾は並べた包材を眺めてみて 「箱をさ、横向きに置いて重ねて、同じ種類毎に入れていけばいいと思う。こういう包材って在庫把握してないと後々困るだろ?」 「うん、おまえの言う通りだな。俺はこういうのがどうにも苦手でな」 綾はふふっと笑うと 「蒼には他が真似出来ない料理っていう得意分野があるよ。俺はそっちの方が羨ましいかも。何か手に職をつけておくべきだったなぁって思う。今更だけどね」 蒼史朗は何か言いたげにじっとこちらを見てから、ちょいちょいと手招きして 「なあ、綾。あっちの客間、一応片付けたんだ。見てくれるか?」 「あ……うん」 部屋を出て、階段から一番遠い部屋に向かう。蒼史朗がドアを開けると、微かに閉め切った部屋特有の埃臭さを感じた。 「一応、寝床だけはきちんとしたぞ。シーツも新しいのに取り替えたし、枕や掛布団は新品だ」 部屋に入りながら蒼史朗が言い訳をする。 綾はダブルベッドだけがデンっと置かれた室内を見回して 「ここに俺、寝るの?」 「うん。おまえと……俺もだ」 綾は驚いて蒼史朗の方を振り返った。 「え?蒼も?」 蒼史朗はバツの悪そうな顔になり 「いや……さっきの部屋ともうひとつな、部屋が塞がってるんだ。周のベッドで2人寝るのはキツイからな。このベッドならデカいから、俺とおまえが寝ても大丈夫だろ?」 綾はぱちぱちと瞬きすると 「もうひとつの部屋も……物置状態?」 「うん。ちょっと手違いで。余計な荷物が届いてしまって」 「余計な……って、どんな?」 「厨房用の冷凍庫や炊飯用の釜だ。本当は庭の物置を改造して、そこに専用の厨房を作る予定だったんだが……役所に届けに行ったら、自宅と同じ住所にキッチンカー用の厨房は作れないって判明したんだ」 綾は口をあんぐりと開けた。 「え……。じゃあ、どうするんだよ?その荷物」 「うーん……まだどうするか決めてない。とりあえず、昔働いてた店の厨房を借りるってことで、役所に書類は提出して許可は貰った。ただ……どっちにしろ、名目抜きで厨房は別に必要だからな。業者に頼んで予定通り庭の物置を改装してもらうつもりだ」 「……つまり……それまでは荷物を動かせないわけか」 「まあ、そういうことだ」 「ふーん……。いろいろと大変なんだな。キッチンカーを始めるのって」

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