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第31話

綾は冷静に答えながら、内心動揺していた。 ……この部屋で……蒼史朗と?またこないだみたいに……? 落ち着け……と自分に言い聞かせる。 蒼史朗はバツイチだが結婚して子どももいるノンケなのだ。昔の同性の親友と同じベッドで寝るなんて、何とも思ってない。 意識する方がいけないのだ。 分かっている。 でも……動揺しないでいられるはずなんかないのだ。自分はゲイで、蒼史朗にせつない片想いをしていたのだから。 蒼史朗はベッドにドサッと腰をおろし大きなため息をつくと 「正直、始める前に挫折しそうだった。役所ってのは、どうして必要な物を最初から的確に言ってくれないんだろうな。俺も仕事しながら合間に時間見つけて周連れて行ってるからさ。これじゃ足りないって書類突っ返される度にブチ切れそうになってた」 綾は苦笑しながら蒼史朗の隣に腰をおろすと 「ああ、分かる。役所とか銀行とか、みんな二度手間三度手間ばっかだろ?だいたい必要のない書類とか、多すぎるんだよ」 「……なあ、綾」 「ん?」 「さっきの……失業の話な。おまえ……大丈夫か?」 綾はドキッとして顔を引き攣らせた。 さっき、勢い余って余計なことを言ってしまったのだ。やけくそになっていた。こんな情けないこと、蒼史朗に知られたくなかったはずなのに。 「あ。あ~……あはは。大丈夫だよ、次の当ても、ないことはないんだ」 「何かあるのか?」 「うん……」 「そっか。でももし……次が見つからないようなら、俺も探してやるよ。それなりに人脈はあるからな」 綾は俯いて手を握ったり開いたりしながら 「ありがと。でもほんと、大丈夫。知り合いの伝手とか、あたってみるし」 本当は当てなんかない。でも、蒼史朗に同情されたり心配されるのは、何だか嫌だった。すごく惨めな気分になる。 ……余計なこと、言わなきゃよかった……。 「綾。無理はするなよ。おまえ、体調も良くないみたいだし。せっかく再会したんだからな。何かの縁だと思って、頼ってくれて構わないんだぞ」 蒼史朗の穏やかな声を聴きながら、綾は思わず涙ぐみそうになってきた。 ……おまえ……優しすぎるって。 高校を卒業してから、一切の接触を断っていたのだ。自分の一方的なわがままで。 いくら幼馴染みとはいえ、そんな風に親身に優しくされたら、弱っている心がグズグズになってしまう。 ……ダメだって、俺。俺はおまえに……甘えたらダメなんだよ。そんな資格、ない。 大好きだった親友を切り捨てたのは、自分の醜い本性を悟られたくなかったからだ。 あの頃は若すぎて真っ直ぐだったから、思い詰めすぎたのだと、今なら分かる。 それでも……大好きだからこそ、今さら蒼史朗に本当の自分を知られたくない。

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