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第33話
蒼史朗は遠くを見るような目になり
「調理学校で初めて料理の基本を教わりながら、いろんな夢を思い描いてた」
綾は蒼史朗の横顔を眩しい気持ちで見つめた。将来の夢を思い描きながら、料理人の勉強を始めた彼。幸せそうに微笑むその横顔に、学生だった頃の彼の顔の面影が重なる。
この横顔を何度憧れを込めて見つめただろう。自分にはない意志の強さや好きなものに打ち込む真っ直ぐさ。クラスではムードメーカーで、彼の周りには自然と人が集まり、明るい笑い声に包まれていた。
子どもの頃からずっと憧れだったのだ。
「夢か。いいな……そういうの。羨ましいよ」
綾がポツっと呟くと、蒼史朗は夢から醒めたような顔でこちらを見て、照れたように笑って
「おまえだって、あるだろう?夢」
真っ直ぐに向けられた笑顔にドキッとする。綾は微妙に目を逸らして首を竦めた。
「夢ね……。昔はなかったな。自分が何をやりたいのか、見つからなくてさ。高校の時も卒業してからも、自分に何が出来るのかどうなりたいのか、よく分からないままだった」
「昔は……ってことは、今はあるのか?」
綾は薄く微笑み俯いて
「……叶うとは思ってないけどね。少しだけ、夢みたいなものが見えてきてる。……っていうか、やってみたいことが出来てさ。趣味だけど」
蒼史朗が両手の親指と人差し指で、四角いフレームを作ってみせて
「これか。カメラ」
綾は顔をあげ、指で作ったフレーム越しに蒼史朗の顔を見つめて思わず微笑んだ。
「うん。カメラ。写真をさ、始めてからすごく楽しくて。俺、それまでこんなに夢中になれることってなかったから」
「いいな。写真が趣味って。なんか格好いいよ。じゃあ、夢はカメラマンか?」
綾はふふっと笑って
「まだ全然、素人の趣味だけどな。一応、雑誌のコンクールにも時々挑戦してる」
「そうか。あ。こないだの向日葵の写真な。よかったら俺にも見せてくれよ」
「あ~……あはは、うん。データ整理したら送るよ」
「あやくんのひまわり、僕もみてみたいですっ」
それまで黙って2人の顔を見比べていた周が、可愛らしい声で割り込んできた。
綾は振り返って、周にニコッと笑いかけ
「うん。俺もあまねくんに見てもらいたいな。今度プリントアウトして持ってこようかな」
「よし。話はこれぐらいにして、綾、おまえはこのまま横になってろ。俺は周を風呂に入れてくるよ」
蒼史朗はそう言ってベッドから立ち上がると、部屋の窓際にぽつんと置かれた椅子を指差して
「あそこにあるスウェットな。俺の洗い換えで悪いけど、寝巻き代わりにしろよ。その格好じゃ寝苦しいだろ」
「あ……。ありがと」
「よーし。あまね。じゃ、風呂に行くぞ」
「はいっ」
周は元気よく返事をして、ぴょこんっとベッドから立ち上がった。
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