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第34話

2人が部屋から出て行くと、綾は改めて部屋の中を見渡した。大きなベッドと窓際の椅子以外、本当に何もなくてガランとしている。 ……そう言えば……蒼史朗のお姉さんって……今、何処に住んでるんだろ……。 蒼史朗の歳の離れたお姉さんとは、あまり交流した記憶がない。今となっては顔もハッキリとは思い出せないが、明るくて優しい笑顔が印象に残る綺麗な人だったと思う。 ……う~……それにしても。 綾は立ち上がると窓際に行き、椅子に畳んで置かれているスウェット上下を見下ろした。 ……蒼史朗の服借りて、ここで一緒に寝るのかぁ……。 そろそろと手を伸ばし、スウェットを取り上げると、何となく胸に抱き締めてみた。 ふわっと洗濯洗剤の香りが漂う。鼻をあててみると、洗剤の香りに入り混じって微かに蒼史朗の匂いを感じた。 ……うわぁ……俺って、気持ち悪いやつ……。 とは思うものの、ちょっと嬉しくてふわふわする。綾はバツが悪くなってきて、慌てて顔から離した。 ……とりあえず、着替えちゃおう。 スラックスを脱いで、椅子の背に引っ掛け、ワイシャツのボタンを外す。 真夏だから、上は中のTシャツのままで下だけ借りてもいいのだが、綾はTシャツを脱いで素肌の上に着てみた。スポッと首を通すと、やはりほんの微かに蒼史朗の匂いを感じた。綾はくんくんと鼻を蠢かし、両袖に腕を通す。 体臭…というほどの強さではないが、この家に来ると感じる蒼史朗の匂い。包まれて、何だかほっとする。 上だけ着ると、袖を鼻にあててくんくんしながら、綾は顔を顰めた。 ……俺ってやっぱ……変態っぽいのかも。蒼史朗の残り香で……ちょっと…… 下腹が微かに熱を持ってもやもやしている。 ……や。バカだろっ、俺。ダメだってば。 綾は独りで紅くなりながら、ぶんぶんと手に持ったスウェットパンツを振り回した。 こんなくだらないことを考えてるのが蒼史朗にバレたら…… 「おい、綾」 突如、ドアが開いて、当の蒼史朗の声が聞こえて、綾は飛び上がった。 「うわっ」 びっくりした拍子に、思わずパンツを持つ手を離してしまった。振り回した勢いのまま、スウェットパンツがポーンっと宙を舞い、バサッと床に落ちる。 「……おまえ……何やってるんだ?」 怪訝そうな蒼史朗の声が背後から聞こえる。恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい 「あー……や、ちょっと、あの、」 顔から火が出る。冷や汗も出てきた。 「夏にそれだと暑すぎるかと思って、こっち、持ってきたんだが……」 蒼史朗の声が近づいてくる。 綾は振り向くことも出来ずに、金縛りになっていた。

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