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第36話
懐かしそうにしみじみと意外なことを言われて、綾はまた顔が火照ってきた。
「おまえ……そんなこと思ってたわけ?俺のこと、可愛い、とかさ」
綾はわざと不貞腐れた顔をしてみせた。そうじゃないとまた挙動不審になりそうなくらい動揺していたのだ。
「ああ。思ってたね。その辺の女子よりおまえ、美人だったからな」
「ちぇっ。美人ってなんだよ。それ、全然褒められてる気がしないし。それより蒼史朗。周くん、大丈夫か?まさか1人で風呂に入らせてないよな?」
照れ隠しに慌てて話題を変えると、蒼史朗は、あっ…という顔をして
「いっけね。裸のまんま待ってるんだ。俺もう行くぞ」
蒼史朗は叫んで慌てて立ち上がり、バタバタと部屋を出て行った。
ドアが閉まると一気に力が抜け、綾は床にへたりこんだ。
……もう……冗談キツい。
腰にバスタオルを巻いただけの蒼史朗の姿に、何処に目を向けていいのか分からず、うろうろと視線を彷徨わせていた。それでも時折目の端に映る姿に、心臓がドキドキしっぱなしだったのだ。
綺麗に焼けた肌。圧迫感を感じない程度についたバランスのいい筋肉。
蒼史朗の裸の上半身を見たのは何年ぶりだろう。
学生時代より筋肉は落ちたが、相変わらず見惚れるくらい男らしい、均整のとれたいい身体だった。
……ノンケって、これだから嫌なんだ。
同性の自分に裸を見せるのなんて、何とも思ってない。こちらの体調が万全なら、一緒に風呂に入ろうぜ、ぐらい平気で言いそうだ。
……こないだの温泉。行かなくてよかった……
一緒に風呂なんか入ったら……
……いや、無理っ。
想像しただけで、身体がカッと熱くなる。
あの逞しい胸に、抱かれてみたいと……思ってしまう自分がいる。
綾は慌てて両手で自分の頬をペシペシ叩いた。
風呂あがりでつやつやほっぺの周が、眠そうに目を擦った。
「あまねー。そろそろ眠いか?」
周はこしこしと目の周りを擦りながら、いやいやをするように首を横に振る。
「んーん。まだぁ…ねむくない、です」
「こ~ら、嘘つくな」
蒼史朗は笑いながら周の頭をわしわし撫でると
「いい子はもうおネムの時間だ。綾は明日の朝もいるんだからな。話の続きは朝起きてからだ」
周はつまらなそうにちょっとむくれて、ちらっとこちらを見る。綾が両手を差し出すと、ぴょんっと飛びついてきた。
「あまねくん。今日はもう寝ようね。朝起きたらまたいっぱいお話しよ?」
周はむずかるように胸に顔を擦り寄せていたが
「……はい」
しぶしぶ頷いた。
「よし。部屋に行くぞ」
周は嫌そうにこちらから離れて蒼史朗と一緒にドアに向かう。部屋を出る寸前、くるっとこっちを振り返り
「あまねも、あやくんとそうくんと、ここで寝たいです……」
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