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第38話
「綾。おまえ……いいヤツだな」
「ん?」
「いや。そろそろ俺らも寝るか」
「うん」
すぴすぴと可愛い寝息をたてている周を挟んで、2人とも枕に頭を沈め寝る体勢に入った。
蒼史朗と2人きりで寝るかもしれないという淡い期待は消えてしまったが、周の温もりがすぐそばにあるのは、すごく幸せで心がポカポカ温かくなる。
綾は、先に目を瞑ってしまった蒼史朗の横顔と周の可愛い寝顔をそっと見つめてから、満ち足りた気分で目を閉じた。
翌朝、周を2人で幼稚園までお見送りして戻って来ると、蒼史朗に体温計を渡された。
「んー……熱はない、か」
蒼史朗は体温計をひょいっと取り上げて表示を見ると、おでこにも手をあててきて
「でもなぁ。おまえまだちょっと熱っぽい顔してる気がするんだが…」
「36.6℃ならほぼ平熱。大丈夫だって」
まだ気遣わしげな蒼史朗に、綾はにこっと笑ってみせた。
「おまえ、今日は職探しって、言ってたよな?何時頃、ここを出ればいいんだ?」
綾はすい…っと目を逸らすと、考え込んだ。
職探し。そうだ。せめて何かバイトでも見つけないと、生活費が底をつく。
紹介してもらえそうな当てなんかないから、まずはネットの求人情報辺りを探してみるしかない。
「そうだな……うーん……」
「失業が分かったのは昨日だろ?ってことは職安にもまだ行ってないよな?」
「あ。……うん」
「んじゃ、まずはおまえのとこの管轄のハロワ、連れてってやるよ」
綾は驚いて、蒼史朗の顔を見上げた。
「えっ?や、いやいや、いいって」
「遠慮するなって言ったろ?俺も今日は届出とか資料作成とか、いろいろ手続きであちこち回るんだ。だからついでにおまえも送ってやる。な?それならいいだろ?」
綾は眉を寄せながら頷いた。
「なんか……いろいろごめん。でも、ありがとう」
「困ったときはお互いさまだ。2階の荷物、おまえのおかげであっさり片付いたしな。よし。じゃあ、9時半頃出るぞ」
「うん」
出掛ける準備をして、蒼史朗の車に乗り込む。
「さてと。このまま直接、ハロワに向かうか?」
「あ~……。えっと。出来たら……いったん家に帰ってこれ、着替えたいんだ」
綾は遠慮がちにそう言って、自分の服を指さした。
「なるほど、そっか。スーツ、庭で倒れた時に少し汚れちゃったよな」
そうなのだ。上着の裾とスラックスの脇の方に泥汚れがついていて、今朝、洗面所で軽く洗ってみたのだがシミになってしまっていた。
「ん。じゃあナビ頼む。まずはおまえのマンションに行こう」
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