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第40話

「綾。おまえの……従兄弟な」 ナビを見ながら運転している蒼史朗が唐突に話し始めた。 「たしか……3つぐらい年上だっけ?岬さん」 ヒヤリとした。車に乗ってもしばらくはその話題が出なかったから、ホっとしていたのだ。 「あ~……うん」 「今、仕事してるんだろ?どんなことやってるんだ?」 綾はフロントガラスの先をじっと見つめたまま 「あんまりよく、知らないんだ。お互い……干渉し合わないようにしてるから。多分……飲食店…かな」 「ふ~ん。同居してるっていっても、そんなもんか。意外とドライなんだな」 「……まあね。そういう方が長続きするんじゃないかな」 白々しい…と内心思いながら、答えていた。 早くこの話題から離れたい。 「意外だったんだ。おまえと岬さんって、昔はそんな接点なかっただろ?年に1回会うか会わないかって感じの、遠くにいる親戚でさ。特別親しい訳じゃなかったのに、どういう経緯で一緒に住むことになったんだ?」 蒼史朗は軽い世間話的なノリで聞いているだけだ。分かっていても、答えに詰まる。 「俺も意外だった。高校出てからいろいろあってさ、岬…さんの大学がこっちで、向こうからマンションシェアしようってもちかけてきたんだ。家賃節約出来るからね」 蒼史朗はちょっとだけ押し黙り、少し遠慮がちな声で 「もしかして余計な質問だったか?悪い。突っ込んだこと聞いて」 蒼史朗の言葉で、自分の口調がつっけんどんだったのだと気づいた。 綾は慌てて蒼史朗の方を見て 「あ。ううん。そんなことないよ。ただ……こないだ岬…さんと、ちょっと喧嘩になってさ。もやもやしてたから」 「喧嘩?」 綾は握り締めた自分の膝の手に視線を落とした。 「うん。やっぱ……いくら従兄弟でも何年も同居してるって、距離の取り方が難しいんだよね。知らないうちにちょうどいい距離感がなくなって、お互いに相手に干渉しちゃってるのかも」 「なるほどな……。ちょうどいい距離感、か」 「うん。俺は岬…さんのいい加減さにムカついてて、あっちは俺の頑固さが気に入らない。そんな感じ……かな」 蒼史朗は、ふう…っとため息をつくと 「ま。そういうのはあるよな。夫婦とかだって所詮は他人だから、長く一緒にいたらお互いに不満も募る。従兄弟っていっても大人になるまで別々に生きてたんだ。考え方や感じ方の違いってのは、簡単には埋まらないよな」 ……おまえはどうだったの?奥さんとは。 そう言いそうになって、綾はグッと言葉を飲み込んだ。 死別だったのだ。蒼史朗と奥さんは。 きっと今でも忘れられない大切な人なのだろう。 「まあね。難しいよな。人間関係って」

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