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第41話
「お。そろそろ着くぞ」
蒼史朗がそう言って信号を左折すると、ハローワークの大きな看板が見えてきた。
「ありがとう。ごめんな、こんなとこまで送ってもらっちゃって」
駐車場に車を停め、綾がシートベルトを外しながらそう言うと、蒼史朗はちょっと不思議そうな顔をして
「俺も行くよ。ダメか?」
「え……?」
「や。一緒に行くのダメなら、車で待ってるけどな」
綾はポカンとした顔になり
「え。おまえ、他に用事あるんだよな?そっち行かなくていいのか?」
「あるけど。あと届出が必要なのは1箇所だけだ。おまえ、足がないと不便だろ」
……うそ。終わるまでずっと俺に付き合ってくれるつもりだったんだ……。
綾が答えに詰まっていると、蒼史朗はちょっと困ったような顔になり
「あ~、いや。俺、勘違いしてたか。今日は1日、おまえの足代わりする気でいたんだけど」
苦笑する蒼史朗を、綾はじっと見つめた。
「俺の職探し、1日付き合う気だったのか?どうして……」
「ん?いや、」
「どうしてそこまでしてくれんの?」
「うん、まあ、昨日のお礼ってのもあるけどさ。俺、仕事抜きで一緒に休み過ごせる友人って、いなかったんだ、ずっと。こないだからおまえと過ごしてて、なんか新鮮っていうか……いろんなこと話せる気楽な友達ってのが、嬉しくてな」
蒼史朗はちょっと照れたように笑って
「正直、おまえといると、バカやってた昔の自分を思い出して……やけに楽しいんだよ。大人になるとそういう友人って、なかなか作れないだろ」
綾は思わず微笑んだ。
「それ、分かる。仕事絡みとかだと気楽になれないもんな。社会人になってからは個人的な付き合いって、俺も全然ないよ」
「だろ?おまえと再会するまでそういうの、別に当たり前だって思ってて気にしてなかった。一緒にいて居心地いい友達って、実は貴重なんだな」
ニカッと笑う蒼史朗の笑顔が眩しい。綾は小さく瞬きすると
「じゃ、俺は昔の幼馴染みから、今の友人に格上げか?」
「親友だったろ?俺ら。またそういう関係になれたらいいよな」
……親友。
そんな嬉しい言葉を、まだ言ってくれるのか。卒業と同時にバッサリと関係を切り捨てた薄情な自分に。
「いいのか?一気に親友まで格上げして」
「くく。おまえのその言い方。なーんかな。やっぱおまえとはウマが合うのかも。周にも言われたんだ。あやくんがいると、そうくんが楽しそうです、ってさ」
「周くんが……」
「あいつ、見てるんだよなぁ。俺がトラブル続きで店、なかなか始められなくてイライラしてた時も、そうくん、こわい顔してます、って寂しそうに言われた。おまえといる時、俺ってすごいおしゃべりになってるんだそうだ。自分じゃ変わってないつもりだったんだけどな」
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