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第42話
「そっか。周くんがそんなことを……」
綾はふふっと笑って
「いい子だな、周くん。素直で明るくて優しくて。おまえに再会出来たのもよかったけど、周くんに会えて、俺すごい癒されてる」
「そうか。いい子か、あいつ」
「うん。蒼の子どもの頃に似てるよ。顔とか性格はちょっと違うけど、醸し出す雰囲気とかちょっとした表情とか」
蒼史朗は嬉しそうな顔になり、少し遠い目をした。
「あいつの顔は母親似なんだ。朗らかなとこも優しいところも。いい子だって言ってもらえたら、きっと喜ぶよ」
亡くなった奥さんのことを思い出しているのだろう。蒼史朗の眼差しはすごく柔らかくて優しかった。
きっと素敵な女性だったのだろう。
亡くなった後も、蒼史朗にこんな穏やかな表情をさせるのだ。
綾は、つきんっと痛む自分の胸を、そっと押さえた。
「結構時間かかっちゃったな。ごめん、蒼。付き合わせて」
ハローワークの建物から出て、2人並んで駐車場の車に向かう。
「大丈夫だ。それより手続きが済んでホッとしたな」
「おまえの方の用事って、こっから近いの?」
「ああ。そうだな……。ここからだと車で30分ぐらいかな」
蒼史朗が運転席に乗り込むと、綾も助手席のドアを開けて乗り込んだ。
「昼飯。どっかで食ってから行こう」
「あ。もうそんな時間?」
「うん。ここからだと、昔修行してた天ぷら屋の近くを通るな。俺がよく行ってた安くて美味い洋食屋、行ってみるか?」
綾はシートベルトを締めながら、思わず頬をゆるめた。
「ふふ。安くて美味い洋食屋か。いいな。おまえが美味いって言うなら期待出来そう」
「よし。じゃあ先にそっちに寄るぞ」
蒼史朗はにっこり微笑んで車のエンジンをかけた。
「すご……。このオムライス。ボリュームありすぎ」
「だろ?横のハンバーグも美味いぞ。デミソースが絶品なんだ」
綾はテーブルに置かれたバカでかいプレートをしげしげと見つめて
「お子様ランチっていうから、もっと小さいの想像してた」
目を丸くする綾に蒼史朗はくくく…と笑って
「大人のお子様ランチだからな。ここのメニューはどれも、値段の割にボリュームあり過ぎなんだ」
「だってこれ、添え物のナポリタンだけで1人前ありそうだろ。うわぁ……。俺、全部食えるか心配になってきた……」
綾が、はぁ…っとため息をつくと、蒼史朗は肩を震わせて
「大丈夫だ。食いきれなかったら俺が手伝ってやる」
「頼むよ」
「任せろ」
蒼史朗はどや顔をして、紙ナプキンで包まれたスプーンとフォークを手に取った。
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