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第44話

「そろそろ、出るか」 「あ、うん。役所、回らないとなんだろ?」 綾の問いに蒼史朗はんー…と首を傾げ 「とりあえず、許可申請しなきゃいけないのが出てきたからな。面倒臭いけど今日はそっちだけでも片付けとくよ」 駐車場に行き車に乗り込むと、運転席の蒼史朗の手がにゅ~っと伸びてきた。 「…っ、」 大きな手のひらをおでこにぐいっと押し当てられ、綾は思わずビクッとして身体を硬直させた。 「っ、な…なに、」 「ん~。熱はねえな。や、おまえ何だか赤い顔してるから。熱でも出たかと思って」 綾はドギマギしながら、蒼史朗の顔を横目で睨み 「ないよ、熱なんか別に」 「でもおまえ、昨夜気を失っただろ?卒倒するなんて普通じゃないぜ。やっぱり病院でちゃんと診てもらった方がいいんじゃないのか?」 蒼史朗の手の温もりにドキドキする。 こんなことされていたらむしろ余計に、変な熱があがってしまいそうだ。 ……もう……。無邪気に触るなってば。 心配そうに覗き込んでくる蒼史朗の顔が近い。 その気のない無自覚なノンケは、これだから嫌なのだ。 綾はおでこの上の手を、指先できゅっと摘みあげて引き剥がし 「大丈夫だよ。今日、蒸し暑いから顔が火照ってるだけ。食欲あるし気分も悪くないよ。病院なんか行かなくていい。それより、まずは何処に行くんだ?」 動揺を誤魔化そうとするから、ついつい早口になる。 綾は蒼史朗からぷいっと目を逸らし、シートベルトのバックルに手を伸ばした。 蒼史朗は解かれた手を所在なげに宙に浮かしたまま、まだ納得のいかない顔をしていたが、やがて首を竦め 「具合悪くなったら遠慮なく言えよ?じゃ、まずは保健所だ」 車で30分ほど行くと、目的地に到着した。蒼史朗は駐車場に車を停めると、後部座席に置いておいたファイルとバッグを掴んで膝の上に乗せた。 「ふーん……。それが、申請書?」 綾が興味津々で覗き込むと、蒼史朗はパラパラと捲って確認していたファイルの束を差し出してきて 「や、これは追加の資料な。俺の場合は常設店舗じゃなくて移動販売だから、普通の許可以外にいろいろ別のも必要なんだ」 「違うんだ?普通のお店と」 「まずは販売場所になるキッチンカー自体に、結構細かい審査基準がある。開口部がどれぐらい必要とか、貯水タンクから水を引いて蛇口から出せるシンクが必要、とかな。衛生面と安全面で、向こうの提示する基準をクリアしないといけないんだ」 綾は受け取ったファイルから資料を取り出し、目を通しながら 「クリアしてない時は、改造とかするのか?」 「そうだ。俺のあの車は、キッチンカーとして稼働してた中古だったから、それほど大幅な改造は必要なかったけどな」

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