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第46話
「もう1か所、保健所だ」
綾はポカンとしてしまった。
「え?今、行っただろ?」
蒼史朗はくくく…と楽しそうに笑って
「おまえって、ほんと素直なのな。思った通りの反応してくれるんだから」
揶揄われたのだ。綾はムッとして
「なんだよ、それ、俺は真面目に、」
「本当に保健所だ。管轄の違う別の」
「……そうなのか?」
「ああ。これも移動販売の面倒くささなんだよ。さっきのは東京にランチ出店する為で、今度は地元の出店場所の営業許可を貰う為だ」
首を竦める蒼史朗に、綾はため息をついた。
「へぇ……。じゃ、出店する場所の分だけ申請が必要なのか」
「ああ。東京は区ごとだ。隣県にイベント出店する場合は、その分の許可も必要だな」
綾は首を横に振って
「ほんと大変なんだな。あ、じゃあ、もう出店場所って決まってるのか?」
蒼史朗はエンジンをかけて、車を発進させた。
「うん。一応、デビューは埼玉の祭りのイベント出店だ。俺が移動販売をやると決めて、勉強の為にセミナーを受けた時の主催者が、デビュー祝いに誘ってくれたんだ」
「セミナー?」
「全くの手探り状態だったからな。自力で調べて参加してみたんだ。その主催者の加賀見さんって人が、すごく面倒見のいい人
男でな。関東近辺でキッチンカーやってる人間なら、知らない人はいないぐらいの名物男なんだ」
綾は運転する蒼史朗の楽しげな横顔をじっと見つめた。
……相変わらずだな……。
社交的で臆することのない精神力と行動力。学生の頃と全然変わらない。
再会してすぐは、昔に比べてどことなく陰があるような印象を感じはしたが、自分の憧れだった蒼史朗はやっぱり健在だ。
「幾つぐらい?その、加賀見さんって」
「ん~……たしか、俺より10ぐらい上だな。面白い人だよ。会ったらきっとおまえ、圧倒されるな」
何か思い出したのか、蒼史朗は独りでくつくつ笑っている。
……いいな。その笑顔。
綾は思わず頬をゆるめた。
側にいるだけで、なんだかパワーを貰えそうだ。思いがけないアクシデント続きで気持ちが沈んでいたが、蒼史朗の笑顔を見ていると気が紛れる。
「ふーん。俺も会ってみたいな、その人に。っていうか、埼玉のお祭り?だっけ。デビューって。俺、行ってみたいかも」
思わずポロリと言葉が零れ落ちた。
蒼史朗がちょっと驚いたようにこちらを見る。
綾は自分の軽率な発言に自分でビックリして、
「あ……いや、そうじゃなくてさ。遊びに行く訳じゃないもんな、ごめん。俺、」
しどろもどろに言い訳しようとしたら、蒼史朗がこちらにガバッと身を乗り出した。
「行ってみるか?」
「……へ……?」
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