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第47話

思わずキョトンとなった綾に、蒼史朗は笑いを噛み殺し 「おまえ、そういう顔、ガキの頃と全然変わらないな。祭りだよ、埼玉の。俺の出店デビュー、行ってみるか?」 笑われて綾は慌てて頬を手で擦り 「行っても……いいの?だって俺、何していいか全然」 「周、連れて行くんだ。俺が店の方忙しくてバタバタしたら、周の面倒見てやれないからな。あいつの相手、してくれるだけでいい」 「…………」 思いがけない蒼史朗の誘いに、綾は赤いキッチンカーと周の顔を思い浮かべた。 ……俺が……一緒に……? 絶句してしまった綾の反応に、蒼史朗は急に身を引き額を手で押さえた。 「あぁ……俺、またやっちまったか?悪い、綾。おまえの都合も考えずにさ。いや、いいんだ、忘れてくれ。俺の勝手な…」 「行く。行きたいっ」 「へ?」 ガバっと身を乗り出した綾に、今度は蒼史朗が面食らったような顔になる。 「邪魔じゃないなら。迷惑じゃないなら俺、行ってみたい」 「綾……でもおまえ、」 「周くんの相手なら俺、むしろやりたいし。おまえ、忙しくて大変なら、俺で出来ることあれば手伝うし」 「いいのか?無理、してないか?おまえ」 気遣わしげに眉を寄せる蒼史朗に、綾はにこっと笑って首を振り 「全然。見てみたいんだ。おまえの出店デビュー。記念すべき夢の第1歩だろ?一緒に行けるなんて、すごい光栄だよ」 「でもおまえ、仕事……。あ……そっか。今、失業中か」 綾は苦笑いして 「そ。もちろん就活するし、すぐ見つかんなきゃバイトしないと、だけど。いつ?お祭り。日にち分かってたら、その日は空けておけるから」 「ちょうど1ヶ月後だ。9月20日。10月のデカい秋祭りにも誘われてるけど、とりあえず規模小さいイベントで、まずはやってみろって言われてさ。人出はそこそこある。でも何しろ初心者だからな。出すメニューも天ぷら揚げるタイミングも提供の仕方も、やってみないとどうなるか全然分からん」 ため息をついて首を竦める蒼史朗に、綾はふふふと笑って 「だよな。俺も想像つかないや。でも……すごく面白そう」 綾の脳裏に、先日キッチンカーで見事な手さばきで天ぷらを揚げてくれた蒼史朗の姿が蘇ってくる。 あの格好良い蒼史朗をまた見られるのだ。そう思うだけで、ワクワクして頬が緩む。 「おまえ、来てくれたらすごい心強いよ。ここまで来たら腹括るしかねえぞって思ってるんだけどな。不安しかなくてちょっと尻込みしてたんだ、正直。一緒に出店するメンバーはみんな、ベテランばっかだしな」 綾は首を傾げて 「や。俺が行っても頼りになんないけどね。おまえ以上に分かってないし」

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