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第48話
「いいんだよ、それで。ベテランばっかの中で1人でアタフタするのって、なんか嫌だろ?分かってないやつがもう1人いてくれたら、ちょっと気が楽だ」
「なんだよ、それ。道連れが欲しいだけかよ?」
かなり失礼なことを言って悪戯っぽく笑う蒼史朗に、綾は口を尖らせた。
「むくれるな。おまえがいてくれたら頼もしいって言ってるんだ」
蒼史朗は白い歯を見せて笑うと
「じゃ、そろそろ行くか。周を迎えに行く前に用事全部済ませておきたいからな」
先に立ち上がり、こちらの肩をぽんぽんっと叩くと歩き出す。
綾は慌てて自分も立ち上がった。
蒼史朗は缶コーヒーの残りを飲み干して、自販機の脇の空き缶入れに突っ込むと、振り返って手を伸ばしてきた。
綾も急いで残りを飲み干し、蒼史朗に空き缶を手渡す。
「さんきゅ」
蒼史朗は受け取った缶をダストボックスに押し込むと
「用事済んだら、マンションまで送ってくよ。あ、どっか寄りたいとこあったら遠慮なく言えよ」
「うん、ありがとう」
ニカッと笑って駐車場に向かって歩き出した蒼史朗の後ろ姿を、綾は少し立ち止まったままじっと見つめてから、ゆっくり歩き出す。
道連れでも周くんの子守りでも何でもいいのだ。
蒼史朗の大切な夢の第1歩に、誘ってもらえたことが嬉しい。
再会した途端、急激に縮まった彼との距離感に、今さらそんな資格が自分にあるのかと戸惑っていた。うじうじと葛藤している自分に、蒼史朗はなんの屈託もなく、気軽に手を差し伸べてくれる。
……友人として。
このまま変に近づきすぎず、ある程度の距離を守ったままなら、もう一度気心の知れた友人として、自分は彼の側にいることを許されるだろうか。
もう一度、昔みたいに、親友として。
綾はそっと自分の胸に手をあてると、蒼史朗に追いつくために小走りになった。
「さて。どうする?直接マンションに送っていくか?それとも、どっか寄って行きたいとこある?」
無事に今日のノルマを果たして、ホッとした笑顔の蒼史朗が、車のハンドルに手を置いてこちらを見る。
綾はにこっと笑い返して、予め決めておいた返事を返した。
「うん、俺、ちょっと買い物とかしたいから、ここから一番近い駅で降ろしてよ」
「駅でいいのか?行きたい店まで連れてくぞ?」
綾は微笑んで首を振り
「予定より遅くなったろ?おまえ。周くん、幼稚園に迎えに行くの遅れちゃうよ。俺は大丈夫。駅に行って貰えたら電車で動けるから」
蒼史朗は自分のスマホの画面を見て
「あ……そっか……もうこんな時間か。なんか楽しかったから、あっという間に時間、経っちゃったな」
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