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挿話「岬と綾」3

「…は?意味わかんな」 「友情の好き、じゃなくて、愛してるの好き。おまえ、男が好きでしょ?そして、親友に恋をしてる」 綾は目を見開いた。 妙に確信のある言い方だった。穏やかに微笑む岬の眼差しは、貫くような強さでこちらを見つめてくる。 突然の呼び捨て。おまえ呼ばわり。 こちらにそんな気なんかないのに、無遠慮に距離を縮めてくる岬に、めちゃくちゃムカついた。 「……ば…っかじゃないの?…なに、変なこといきなり、」 答える自分の声が、みっともなく掠れた。握り締めた拳が震える。 「見てたら分かるよ。おまえと彼のこと。綾が彼を見る時の目。ものすごく分かりやすいよね。感情が出すぎ」 唐突に我が家にやってきた岬が、たまたま家に夕飯を食べに来る予定だった蒼史朗と、顔を合わせて話をしたのは昨日の夜だけだ。 同じ食卓を囲みながら自分はほとんど喋らなかったし、蒼史朗だって岬に質問されて答えていただけだった。会話はほとんど弾まず、食事を終えた後は、いつものように蒼史朗と2人で2階の自室にあがった。 あんなちょっとの会話で、岬が気づいたはずがない。 綾はそう結論づけると、泡立ってしまった気持ちを落ち着ける為に、そっと深呼吸をした。 「岬さん。あんたが何言ってんのか、全然分からない。悪いけど俺、帰るわ。別に話すこと、ないし」 「俺は分かるよ。おまえと同じだから。俺も男しか好きにならない人」 岬はそう言って親指でくいっと己の顔を指し示し、にこっと笑った。 綾は内心、激しく動揺した。 今まで他人に、自分のそういうデリケートな部分に触れてこられたことは1度もなかったし、同じ指向の人間と会ったこともない。 …なに…?この人。なんだよ…なんで…そんな… どうしてそんなセンシティブな話題を、まるで世間話でもするように気楽に口に出すのだ。 やけに楽しそうに。 「やめてよ、俺、そういうの、…じゃないから、」 毅然と言ったつもりなのに、声が震えた。 同じだと、分かってしまうものなのだろうか。いや、そもそも本当に、岬も自分と同じなのだろうか。 怖くて、今まで誰にも言えずにいた。同性の親友に、もうずっと前から片想いしていることを。 「言えなかったんでしょ?分かるよ。俺もずっとそうだったから」 岬はこちらの精一杯の弱々しい抵抗を、完全に無視している。でもその口調は、なんだかすごく優しくて温かい…気がした。 「ね、あそこに、座ろう?俺はさ、綾ともっと話がしたいんだ。お仲間だからね。おまえの気持ち、俺ならわかってやれるよ」 優しく手首を掴まれて、それを振りほどく気力はなかった。

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