101 / 126

挿話「岬と綾」5

岬は、雑草に侵食されているボロボロの階段を、それほど慎重にでもなく上がっていくと、背中合わせに置かれている木のベンチに、軽い身のこなしで腰をおろした。 見せつけるように高く掲げた長い脚を組んで、ふんぞり返って背もたれに片腕を引っ掛け 「おいで」 ちょっとドヤ顔で顎をしゃくる。 ……なにそれ。そこ、あんたの場所なのかよ。 ガキんちょが先に見つけた秘密基地を得意気に自慢しているような、岬のやけに子どもっぽい表情と仕草に、綾は思わず内心苦笑した。 本当に変な奴だ。 ちょっと傲慢で得体が知れない雰囲気だが、時々こういうちぐはぐな印象になる。 自分より年上の人だからと変に身構えてしまって緊張していたが、思ったより中身はガキなのかもしれない。 …まだどんな人なのか、よくは分からないが。 綾は強ばっていた表情をゆるめ、首を竦めると、足元を確かめながら階段をあがった。行く手を阻むように纒わり付く雑草を、足先で蹴飛ばす。 「すごい、草ぼーぼー」 「うん。ここ、管理甘いよね。周り、綺麗な住宅街なんだからさ。草刈りぐらいしろよって感じ」 上半身にまで纏わりついてくる背の高い雑草を手で払い除けながら、岬の座るベンチに近寄る。 ベンチの座面を手でぽんぽんと叩き、早く座れとばかりに促してくる岬に、綾は顔を顰めた。 「ボロボロ。2人座ったら壊れちゃうんじゃないの?」 岬は少し目を見張り、座面をしげしげと見つめて 「や。大丈夫だろ。俺、ここで昼寝してたけど別にグラグラもしてないぜ?」 「……昼寝……。」 こんな場所で? 季節は春から初夏に向かっている。屋外で過ごすには、一年で一番いい気候だろう。ここはもともと山を削って造成された場所だから、駅周辺に比べると若干標高が高い。真夏でもそれほど暑さがきつくない地域なのだ。 とはいえ、草が生え放題のこんな場所で昼寝なんかしていたら、変な虫に刺されそうだ。 「なんで、こんな所で?学校って、いま休み?」 あまりもじもじしていても、まるで女の子みたいに警戒していると思われて、なんだか格好悪い気がした。 綾は思い切って、ちょっと乱暴に岬の隣に腰をおろしてみる。 岬は楽しげな笑みを浮かべて 「壊れそうっていうわりに、雑な座り方するんだな、おまえ」 ……雑とか、あんたに言われたくないし。 綾は小さく舌打ちをした。

ともだちにシェアしよう!